第12話 精霊のくれたもの
短いです。今までで一番短いかと思われます。
魚祭りの翌日の朝。
朝日が窓から差し込む。
「む……朝か……ふあああああ」
眩しさから目が覚め起き上がって伸びをする。ここまではいつも通りだった。
バサッ。
羽の音が後ろから聞こえた。
「ん?……なんか背中が……って」
後ろを振り向いて見えたものに愕然とする。
「ええええええええ!!!」
俺の叫びが木霊した。
「どうしたのー?」
「何かあったのー?」
眠たそうに目をこすりながらの俺の家に泊まっていた妖精達がわらわらと部屋に入ってくる。
妖精達は固まっている俺に首をかしげる。
「あれ?その角と羽どうしたのー?」
「ふかふかー」
妖精達の言葉にハッとなった俺は頭を触る。
「な、なんだこれ……」
耳の上に何か硬いものがあるのだ。
ばっと反射的に起きてすごいスピードで部屋を出て台所の水瓶に向かって走る。
そして水瓶を除きこむ。
そこにはいつもより尖った耳の上にシンプルで真っ黒な角がすっと生えていた。
そして背中には真っ白な羽。
「どうしてこうなった……」
呆然と呟く。
後から追いかけてきた妖精が話しかける。
「てっしょー」
心配そうに見上げてくる妖精。
「俺……いったいどうしちゃったんだろうな……」
ぽつりと呟く。
「なんでそうなったかてっしょーもわからないの?」
「ああ、全く分からない。心当たりも無い」
「今日は雰囲気がすごく精霊みたいだけど、何かあったの?」
「何も無かったけど……精霊みたい?」
ちょっと待て。
「うん。昨日までは少しだけ精霊のような感じがするだけだったけど、今は精霊そのものみたいな感じだよ」
精霊そのもの?どういう事だ?
「精霊ならどうしてこうなったか知ってるかも」
俺達は急いで外に出て精霊を呼んでみる事にした。
すると精霊は待ち構えていたかのごとくわらわら出てきて、辺りあたりは光の玉が飛びまわっている。
「なあ、お前ら。どうして俺に羽や角が生えたか知らないか?」
そう聞くとすぐ直ぐに答えは返って来た。
精霊からのイメージをまとめる纏めると……
羽と角は精霊達の仕業。
だが、そこに悪意は全く無く善意のみ。
以前、俺が初めて精霊とあった日に俺が飛べない事を知った精霊達がそれでは不便だと思い、じゃあ羽を生やさせてあげようと思ったのが今回の行動のきっかけ。
角は副産物。
実は初めて会った日から力を注ぎ込みつつ、羽が生えるようにと頑張っていたらしい。
そして昨日ようやく準備を終えた時、祭りの中で俺を発見した精霊達は……
妖精や魔物に生まれればよかったのに……
そんな俺の思いを感じ取ったらしく、羽を生やすと同時に自分達に近しい存在にすれば俺の思いを叶えてあげられると思った精霊は、俺が寝た後に精霊達が集れるだけ集って全力で力を注いで思いを叶えようとした結果成功し、俺は精霊に近い体にしてしまったようだ。
精霊達から事情を知って呆然となる。
「じゃあ……お前らは俺の思いを叶えてくれただけなのか……」
精霊達は嬉しそうに舞う。
思いが無くとも精霊化していたのでは? と聞くと、羽は精霊の加護として生えるだろうけど俺がいらないと思えば消滅するものだったらしい。
俺の寂しいと思った気持ちを感じた精霊達は、もう寂しいと思わないように、頑張ってくれただけだったんだ……
「怒るに怒れないじゃないか……」
原因は俺自身だから。
「善意でやってくれた事についてはありがとう。でも、そう言う事は一言本人に言ってからやる事。わかった分かったか?」
精霊達から褒められたーと喜ぶ感情が伝わってくるが、本当に分かっているのだろうか?
しまう事はできるらしいが元の体に戻す事は無理のようなので、だ。普段はしまっておけば良いだけだしグダグダ落ち込むのは良くないだろう。
ただ、しまうのには慣れが必要との事なのでしばらく不便そうだが。
「てっしょー。羽生えたんだし飛んでみなよー」
「そうだな」
せっかく精霊達からもらったんだ。楽しまなきゃ、損だよな。
「やってみっか!」
新しい体の感覚で少しぎこちないけど羽を羽ばたかせる。
ふわりと体が浮き上がる浮遊感に少し不安を感じつつ空を飛ぶ。
下から妖精達の嬉しそうな声が聞こえ、精霊達は俺と一緒に飛ぶ。
初めて飛んだというのに羽の感覚にすぐ慣れ、すうっと風をきって飛ぶ。
いつの間にか浮遊感からくる不安もなくなった。
すごく凄く楽しい。
風をきって飛ぶのがこんなに楽しいと思わなかった。
頬や羽に当たる風が気持ちよ良くて。
下に見える景色がとても綺麗で。
一緒に飛んでいる精霊達のはしゃぐ気持ちが伝わってきて自分もはしゃいでしまう。
本当にさっきまで少しでも落ち込んでいたのが馬鹿みたいに思えてくる。
たとえ体身体がいくら変わろうと心が変わらなければ良い。
皆と一緒に居いられるなら。それだけで良い。
……なんだかこの体身体になってようやく吹っ切れたみたいな感じだ。
人間だとか妖精だとか、ちっぽけな事で寂しさを感じていたなんてと思ってしまう。
妖精達は俺を家族だと言ってくれたじゃないか。
魔物達も喋れないけど行動で示してくれたじゃないか。
大切な事を忘れて一人だと寂しがって…バカだな、俺。
だから心からお礼したい。
大事な事に気付かせてくれた精霊達に。
ありったけの気持ちを込めて。
ありがとう――
妖精さん、あんまり出番なかった……魔物にいたっては出てこなかった。
普段出てこない精霊さん登場。
展開が……もっと頑張らなきゃですね……
ともかくもうそろそろ2章にいけたらなぁと思ってます。
いけたら……いいな。