第11話 小さな気持ち
今回はいつもと少し違う感じのする話なのでタイトルも少し変更。
ほっこり度少なめ。
最後の方の雰囲気が少し暗めで短いです。
「てっしょー」
妖精達が来た。
いつものように縁側からわらわらと入ってくる。
「どうした?」
「今日は川に行くのー」
「川って……お前ら大丈夫なのか?」
流されそうで怖いんだが……
「流されて楽しいのー」
すでに流されていたというか流される事を楽しんでた……
「危機感無さ過ぎだろ……」
頭を抱えたくなった。
「もう先に行って遊んでるのもいるの。早く行こー」
何!?もう先に行ってる奴がいる!?
あああ、もう!流されてるかも!
「急いで行く!お菓子はそこの籠の中だ!ゆっくり持ってくるように!」
妖精達に言う事言ってから川へ向かって走る。
川。
きゃー!と楽しそうな妖精達の声が聞こえる。
くっそ!声からして流されてるのもいる!
急いで流されてそうな声の方に走ると、楽しそうにぷかぷか浮きながら流されている妖精発見。
ばっと思いっきり飛び込み、流されている妖精を捕まえる事に成功。
「あ、てっしょーだ!」
「あ、てっしょーだ。じゃない!流された後の事考えろ!この先は滝だぞ!」
「大丈夫だよー。とっても楽しいんだよー。ひゅーってなってざばーんってなるの」
妖精の頑丈さなら無傷だろうが……それでも危ないもんは危ない。
とりあえずため息つきながら泳いで川から出て妖精をおろす。
びしょびしょだーと呑気な事を言っている妖精を見ながら、何か対策を立てたほうが良いと考える。
「滝の手前にネットでも置くか?魚が引っ掛からない程度の……泳ぐ時だけ取り付けるとか………って!またかー!!」
次から次へと流れてくる妖精。
ざぶざぶと川に入って妖精達を回収。
頭やら肩にしがみついて楽しそうにする妖精達に怒る気が失せてきた。
「と言う訳で泳ぐ時はこのネットを取り付けるように」
たまたま近くにシュピニューという糸を吐く蜘蛛っぽい魔物がいたので、そいつに協力してもらってネットを作った。
シュピニューは、大体50cmくらいの白い綿毛のような毛が生えた蜘蛛っぽい虫型の魔物。
黒い大きな目が二つ、小さな目が四つで、爪と牙が黒い。吐く糸は種類が色々あるらしく、ねばねばした物からさらさらした物まで作れるのが自慢らしい。
今回は妖精のために特別な糸でネットを作ってくれた。
流されてきた妖精はネットに触れた途端弾かれて陸地に飛ぶという仕掛けを入れたネットだ。
正直その仕組みがどうなっているかは分からないが魔法をかけたらしい。
「それ、おもしろい?」
「ああ、おもしろいぞ。それにこれがあれば何回も流されごっこができる」
妖精達の流される遊びは流されごっこと名付けた。
遊びに名前を付けるという事をしたことの無い妖精は面白がった。
「やったー!」
「早くそれつけて早速やってみよー!」
「はいはい」
ネットを取り付け妖精達の所に行く。
「もう流されごっこ始めてもいいぞー」
そう言うと妖精達は川に飛び込んでぷかぷか浮き始めた。
なんとなくこれは妖精達にとってウォータースライダーみたいなものなのだろうか?と思った。
そういえば妖精達は遊具と言うのを知らないんだったっけ……
色々と作ってあげるのも良いかもしれない。
「てっしょーもやらないの?すっごく楽しいよ!」
「あー俺はお前らみたいに浮いて流れるのは大きさ的に無理だから。釣りでもしてるよ」
「あ、ぼくも釣りするー」
「わたしもー」
「じゃあ、釣りする奴は釣竿持ってきてくれ」
「わかったー」
釣竿の事を妖精に任せ、他の川で遊ぶ妖精達を見守る。
どうやら妖精達はネットが気に入ったようだ。
弾かれるのが面白いんだと。
ぷかぷかと流されていった妖精がネットに当たった途端ポーンと飛んでいくのはなかなか不思議な光景だ。
妖精達は体の大きさのわりにすごく軽いせいかぽんぽんとおもしろいくらい飛んでく。
そして着地した後はころころ転がってすごく楽しそうな顔をしている。
本当に妖精達は何でも楽しく感じるんだなと思う。
すごいポジティブなんだろう。
そう考えていると妖精達が釣竿を持ってきた。
「てっしょー持って来たよー」
「おう、ありがとな。さあ、今日釣った魚は晩御飯になるからな。沢山釣ろう」
「おおー!」
流されごっごをやっている地点から少し上流に行き魚釣り開始。
隣で妖精達が釣竿を振っていた。
妖精達は釣りをする場合は、二三人がかりで行う。
魚は大抵妖精達より大きいから一人では釣れないのだ。
まあ、魔物に手伝ってもらう事も多いみたいだが。
多分妖精達だけで釣りに行かせるのが心配だからだろう。釣った魚に食われかねないし、力負けして逆に釣られる事もありそうだ。
心配事は増えるばかりだな……
そう考えていた時、妖精達から楽しそうな声が聞こえた。
見ると釣竿に何かが引っ掛かったようだ。
妖精達が集って釣竿を引っ張り、魚影が少しづつ見えてくる。
……ってデカ!?
巨大な魚が川からジャンプして妖精達の後ろにどすんと落ちた。
大きさは俺よりでかい。妖精達を丸呑みできるレベルだ。
よく釣り上げたなって言うより、この川のどこにこんなでかい奴が棲んでいたのか凄く気になる。
凶悪そうな魚はひれを巧みに動かして妖精達を食わんと襲い掛かってきた。
俺は急いで腰にぶら下げていた鎚を取り出しだし、魚を思いっきりぶん殴った。
魚は大きなたんこぶを作り、白目を向きながら倒れる。
妖精達はでっかいの釣れたーと喜んでいる。
こいつら……食われかけたのに気付いてないんだろうか?
なんだかだんだん過保護レベルも上がってきている気がする。
「これ、どうしようかねぇ……」
ため息吐きながらとりあえず妖精達が釣り上げた巨大魚を見る。
とてもじゃないが俺と妖精で食べきれる量じゃなかった。
「皆を呼んで一緒に食べようよー」
「そうだな、それしかなさそうだな。さっきネット作ってくれたシュピニューは絶対呼ぼう」
釣りを中止して巨大魚を調理するために家に運ぼうと思ったのだがでかすぎて運べないわ家に入らないわで……結局魔物を呼んでいつもの広場に運んでもらい、巨大魚の解体ショーが始まった。
いつの間にか川遊びしていた妖精達も集まり、広場は賑やかになる。
その日の夜は魚祭りとなった。
お刺身、香草蒸し、から揚げ、焼き魚など。
大量の魚料理ができた。
皆は料理を食べながら歌ったり踊ったり。
楽しい事が好きな精霊達も皆と一緒になって舞っている。
どこから持ち出してきたのか打楽器を叩き始める奴まで出てきて。
打楽器の独特のリズムが広場に広がって行く。
独特な雰囲気に包まれる。
その雰囲気にふと、思う。
ここで人間は自分一人だと。
だが皆は魔物も妖精も精霊も種族関係なく祭りを楽しんでいる。
俺も楽しいと感じている。
でも、少し……ほんの少しだけ寂しいとも思う。
俺も妖精とか魔物に生まれればよかったのに……と少し思ってしまう。
まあ、そんな事考えても生まれ変われるわけでもない。
首を振って考えを振り払い、祭りに混じる。
自分が先ほどまでいた場所に精霊が集まるのに気付かないまま。
本当は川遊びだけの話にするつもりが少し暗い話に……
でも意味無く暗くしたわけではないので安心?してください。
では、誤字脱字・感想アドバイス等お待ちしております。