両親の死
水無月は蓮と別れて3日が経つ事だった。
「おはようございます」
アッサリとした挨拶を交わしながら蓮に書類を渡す水無月、蓮は未練があるようで何か言いたげだった。
「ありがとう・・・井上さん・・・」
「それと婚約おめでとうございます、後で記入してほしい書類がありますので手が空き次第、岩下さんに声を掛けてください。」
無表情で去っていくのだった。
蓮との交際がなかったかのように振舞う水無月に社内の者は同情を抱くのだった。
お昼時間、部長と屋上で弁当を食べる蓮
「お前も馬鹿だな」
「えっ・・・」
「井上を捨て坂上と結婚するなんてよ・・・」
「・・・俺も好きで別れたんじゃないんです。」
「分かっているよ、井上からだろ」
「・・・はい」
「お人よしで気立てもいい、おまけに回りに気を使いずぎるくらいいい女で他人が傷つくよりも自分が傷ついたほうが良いと思う奴だよな」
「はい・・・」
蓮はいつの間にか泣いていた。
「おいおい、泣くな、いい大人が」
「俺・・・マジで水無月に惚れていたんです・・・一夜限りの甘い誘惑に負けてしまい・・・本当に俺は・・・馬鹿です。」
「柊、今から大変だぞ!子供産まれるんだからな。」
「はい・・・」
仕事に戻るのだったが社内に戻るひと騒ぎが起きていた。
「皆どうしたんだ?」
「部長何処に居たんですか?探しましたよ。」
「何だ?」
女子社員が話している後ろから水無月が出てきた。
「すいません・・・先ほど病院から電話があり私の父と母が事故にあって搬送されているので向いたいのですが」
冷静な水無月に部長は驚くが
「私が病院まで送ろう」
「いえ、下にタクシーを待たせています。」
水無月は会釈をして歩き出すと部長も後ろから着いて来た。
「私も行くよ、井上」
「はい・・・」
二人はタクシーに乗り込み病院にむかうのだった。
病院に着くと沢山の医療機器に囲まれた水無月の父が居た。
「父さん・・・」
手を握ると水無月を待っていたように目を開ける父。
「済まない・・・母さんを・・・最後まで守れなかったよ・・・」
「えっ・・・」
「私も長くない・・・」
「何言ってるの、よくなるから私を一人にしないで・・・」
「済まない・・・」
水無月の父はニコッと笑い2個の指輪を渡し安らかな眠りについた、ショックのあまり気を失う水無月だった。
気がつくと病院のベッドに寝ていた。
「井上さん、大丈夫ですか?」
看護婦に起こされ返事をするため声を出そうとするがでなく困る水無月。
検査の結果ショックによる言語消失だった。
それから葬儀も終わり半年塞ぎこんだ後、水無月は会社に行くことに。
「井上・・・」
水無月が会釈すると部長が椅子を出す。
「痩せたな・・・」
苦笑いする水無月は喋れないので手紙を部長に渡した。
「なにに・・・」
このたび、色々と部長には迷惑をかけすいませんでした、このまま甘えて休んでいるのも迷惑ですので父が自営業を営んでいたのでそれを継ぐ事になり、この会社を辞めることにしました。
今までありがとうございます。
「だが・・・喋れない事を気にしているなら気にする事ないぞ」
部長は喋れない事を気にすることないとか言っていたけど私が精神的に参っていた・・・
水無月は退職届を出し去ったのだった。
家に帰ると・・・
「あーあーうーうー」
うなり声程度は出るが言葉が出なかった。
父は自営業をしていて、使い切れないくらい財産はある。
父が亡くなり私が継ぐ事になったが良く分からない・・・
隣町に叔父さんが居るから明日行ってみる事にした。
水無月は父の仕事を継ぐが良く分からなくこの先、どうすれば良いか不安をつのらせるのだった。