神村、恋愛イベント1「偶然」
皆さんこんばんは、ファミレスの店員Aです。
面倒だから店員Aでいいです。
私は今ファミレスでバイトをしています。
「お客様っ、困ります」
なんで私はこんなことやっているんだろうね。
くだらない。
目の前の四人席には、なんというべきか主人公花崎歌と不良Aが座っていた。
「うっせーな!何しようが俺の勝手だろ?」
なにコイツふざけてんの?
殺っちゃっていいの?
え?駄目、うん知ってる。
これは花崎歌の恋愛イベントだもんね。
私は大人しくモブキャラの店員Aをしてますよっと。
「っ、隼人さん……早く」
花崎歌は乙女モード全開な顔をして隼人さん(古城兄)の名前を呟いていた。
へえ、今日は古城兄のイベント?
「はっはっはー!愉快だねぇ」
パリンパリンと割れる音がして、皿が次々に粉になっていく。
やべ、破片があたって足怪我した。
「お客様!」
なんでこうモブキャラって語彙が少ないのかねぇ。
本当は「やんのかゴルァ」って不良丸出しでいきたいとこだけど、キャラじゃないからな。
しかもそんなことしたら脇役に転移するうえに、もしかしたら友達エンド(はーと)という結末が用意されてるかもしれん。
そんなの嫌だ。
仕方ない、古城兄が来るまで時間稼ぎしろってことだよね?
「やめてくださいっ」
花崎歌が可愛らしい声を出して不良Aを注意する。
にしてもなんで花崎歌はこういう状況になったの?
まあそんなの関係ないか。
私が知りたいのはいきさつではなく、結果なのだから!
「おい」
キター!
……でもおかしい。
この声は古城兄ではないぞ?
古城兄よりも男らしい低音ボイス。
私と不良Aと花崎歌は一斉に声がする方を見た。
「あ、神村くん……」
花崎歌が神様でも見るかのような目で神村くんと呼ばれた男を見ながら言った。
ああ、この間転校してきた神村武蔵か。週刊!校内すくーぷ。で取り上げられていた……私の予想、あたりました!!
褒めて褒めて!
「花崎か」
神村武蔵がチラリと花崎歌を見たあと、すぐに不良Aを見た。
なにこれって、神村武蔵の恋愛イベントだったりする?
名前を知ってるとこ見れば出会いイベントはすでに終わっているようだし。
「花崎も店員も困っているだろう」
あら優しい、花崎歌だけでなく私のことも考えてくれちゃって。
でも心配はご無用。
なんたって私は店員A、ニ分後には忘れられている存在なのだからね。
「余裕だなぁおい」
「弱いな」
「神村くんっ!」
不良Aが神村武蔵を殴ろうと拳を上げるが、それをあっさり止めてしまう神村武蔵。
神村武蔵は手に力を入れ、不良Aを睨む。
なんでこういうときって、神村武蔵と花崎歌と不良A以外空気になるんだろうね。
永遠の謎だわ。
っていうか真っ先に店長出てくればいいだろ。
本当にご都合主義だなぁ。
「いてぇ!」
「だろうな」
あーあ。なんか飽きてきた。
「神村くん、それ以上やったらその人怪我しちゃう!」
早く終わらないかなー。
仕方ない、時間を進めてしまおうかな。
っていうわけで三分後。
なんやかんやで、不良Aは逃げていき、花崎歌は笑顔で神村武蔵にお礼を言っていた。
「ありがとうございます」
一応私もお礼を言っておく、だって礼儀じゃない。
神村武蔵は「いや」と言ったあと私を見て、
伝票を差し出してきた。
あ、もともとファミレスにいたのね彼は。
「レジへどうぞ」
私は素早くレジまで移動をする。
神村武蔵は花崎歌に別れの挨拶をして、レジまで来た。
それと同時にファミレスの自動ドアが開く。
「783円です」
……古城隼人だった。
少し遅かったなざまぁみろ。
「なあ、アンタ」
「はい?」
古城隼人に気を取られていると、いつの間にか神村武蔵が私をじーっと見つめていた。
しかも話しかけてきた。
なんで?
「足、大丈夫か?」
なにこの子めっちゃ素敵やん。いやいいねイケメンだし。
「はい、大丈夫です。1000と83円お預かりします」
チーンと音がして、同時におつりを渡す。
「300円のお返しです。ありがとうございました」
「ああ、ごちそうさま」
最後までいい子だな神村武蔵。
でも君も結局、攻略対象キャラのひとりに過ぎない。
それ以上でもそれ以下でもないのだよ。
無口で硬派な剣道部、神村武蔵。
これで六人。
一応全員集まったわけだ。
場合によってはライバルキャラとか増えるかもしれんがまあモブキャラ、頑張って脇役の中の脇役で留まるだろうね。
十月上旬。
この物語は花崎歌を中心としたものである。
王道破りなど、許されるはずもない。
あれ?これじゃまるでこれから王道破り展開きちゃうんじゃね?
まあいっか。
てかいきなり神村、恋愛イベント1って題名おかしくね?
まあいっか。
校内すくーぷの件で出て来てるから大丈夫なはず。