文化祭〜4〜
「おいしい……」
更衣室でメイド服を脱ぎ制服になった私は今、隼人くんとたまたま会ったので一緒にお昼を食べています。
隼人くんのクラスは焼きそばをしていて、主に神村くんがつくっているようでした。
「これって、神村くんが作ったんだよね?」
「ああ。あいつはよく働いてくれるよ、暇だから一日中するとか言っていたし」
コーヒーをすすりながら隼人くんはちらりとダンボールでできたカウンターの向こうで焼きそばをつくっている神村くんを見て、少しだけ笑う。
私もつられて神村くんを見ると、気付いたのか一瞬だけ私たちを見たような気がしました。
「え、でもそれはキツイんじゃないかな?」
焼きそばを食べる手を止めて、目の前の隼人くんに視線を戻す。
いくら本人が良いと言っていても、せっかくの文化祭だし……。
「うーん、確かにそうかもな」
「そうだよ。もしかしたら神村くんも本当はどっか行きたいのを我慢してるのかもしれないし」
「神村が?いや神村が文化祭に興味があるとは思えない」
「そんなこと……」
あるのかもしれません。
神村くんはこのようなお祭りはあまり好きじゃないようなそぶりをしていましたし。
「古城、花崎」
噂をすれば、というやつでしょうか?
私たちが座っていた席の前に神村くんが立っていました。
「神村くん、わっ!すごい汗」
「悪い。暑くてな、二人が見えたから少し抜け出してきた」
神村くんはうっとおしそうに額の汗を手で拭いため息をついた。
その仕草はとても男の人らしく、格好良よくてドキッとしてしまう。
「今ちょうど神村の休憩について考えてたんだけど」
「俺の?さっきいらないって言ったはずだが」
「駄目だよ神村くん!休憩はちゃんととらないと」
「そんなこと言われても、ただでさえ少ない人数で調理をしているのにこれ以上減ったら困るだろう」
「で、でも……」
「気持ちだけ受け取っておく」
薄く笑って神村くんはまたカウンターの方に戻ろうとしました……が、隼人くんが神村くんの腕を掴みそれを止めて。
「待って、俺が代わりにやろう」
「……は?それは悪い」
「別にいいよ、俺の仕事楽だったし」
「古城、でも」
なんて優しいのでしょうか!
感動!
やっぱり隼人くんはすごくすごく良い人です。
周りから冷たいとか言われていますがあり得ない。
一方神村くんは困惑顔で私と隼人くんを交互に見ていました。
その後、意を決したように口を開き言う。
「一時間だけ頼めるか」
「任せろ」
神村くんはお礼を言い、更衣室がある方向に歩いて行きました。
そのちょっぴり焦っている様子から神村くんもやっぱりどこか行きたいところがあったのかと感じますね。
「ごめん歌」
「ううん、気にしないで。頑張れ隼人くん」
「いってきます」
隼人くんは席を立ち、カウンターの方に去って行きました。
それを見送った後、私はまた神村くんお手製の焼きそばを食べ始めました。
☆・☆・☆
「歌!」
「あ、良ちゃん」
お昼ご飯を食べ終えて、自分のクラスに戻ると制服姿の良ちゃんが声をかけてきてくれました。
「やーっと見つけた!どこにいたの?」
「神村くんの作った焼きそば食べてたの」
「あー、じゃあもう昼食べちまったんだ……」
明らかに落胆する良ちゃん。
なんか悪いことしちゃったでしょうか。
「ご、ごめんね」
「いやなんで歌が謝ってるんだよ、気にすんな。それでさ、お前今……暇か?」
「暇だよ、だからこれから模擬店回ろうかなって」
「そそ、それならさ、もしよかったら俺も一緒に……」
「歌ちゃんみっけ」
「あ、勇人さん」
後ろから声がしたので、振り返るとそこにはニコニコしている勇人さんが立っていました。
制服姿で、腕には生徒会と書かれた腕章をつけているので、生徒会のお仕事の途中なのかな?
「お疲れ様です」
「え、ああ、ありがとう。ところでさぁなんで長谷くんと歌ちゃんが二人でいるの?」
「えっとそれは」
「歌とこれから二人で、模擬店回ろうって話してたんだよ」
「へぇ?」
相変わらずニコニコしていますが、心なしかその笑顔に影がさしたような。
いやまさか、勇人さんは優しいですしそんなはずないですね、見間違いです。
それにしても、良ちゃんは私と模擬店まわるって……これはもしかして私が一人だと少し浮いてしまうからという良ちゃんの配慮なのでしょうか。
う、なんか申し訳ないことをしてしまいました。
「私は一人でも大丈夫だよ、良ちゃん」
「まてまてまて!なんでその結論に至るんだよ!」
「へぇ、だって?良ちゃん?」
「うわ気持ち悪い!男が良ちゃんって呼ぶな」
……あれ?なんか余計に混乱させてしまったような気がします。
何がいけなかったのでしょうか?
「あの、私……」
「いい提案があるよ、歌ちゃん」
「え?」
「歌ちゃんと長谷と俺で、一緒に模擬店見ていかない?」
「はぁ!?お前なに言って」
「え……いいんですか?」
模擬店、三人でまわる。
とても楽しそうで思わず大きな声を出してしまいました、恥ずかしい。
でも本当に、想像しただけでワクワクしてきてしまいます。
きっと楽しいだろうなぁ、って。
「だって、長谷くんはどうする?」
「……歌が喜ぶなら」
「決定だね」
勇人さんはそう言って、手に持っていた文化祭のパンフレットを開きました。
模擬店の一覧がそこには載っていて、どれもとても魅力的で……。
これから文化祭楽しみます!
数年ぶりの更新となってしまいました。
このまま終わってしまおうかな、と何度も思いましたが、いまだに読んでくださる方が多く、感謝の気持ちとともに申し訳ない気持ちでいっぱいです。
今まで放置していてすみません。
これからまた少しずつ更新できたらなと思っています。




