香坂馨の場合
ふわぁ、眠い。
最近とても寝不足だ。
おかげで休み時間だと言うのに、自分の席から立ち上がる気力すらない。
ゲームしてたから自業自得なんだけど。
一日二十四時間じゃなくて、三十時間くらいに変えるべきだと思うんだ。
「聞いた聞いた!?香坂先輩の話」
「え、どうかしたの」
女子生徒1と2が、私の席の斜め前あたりで香坂馨の話をしていた。
ラッキーだな、とりあえず情報収集しにいかなくても噂は聞けそうだ。
「今年は本命の子がいるから、クリスマスカード渡すんだって」
「えぇ!?相手は誰なの?」
「そんなのぉ、言わなくても分かるでしょ!」
「あ?ああ……まあね」
二人は長谷良太と楽しそうに笑っている花崎歌を見ていた。
花崎歌が逆ハーレムを築いてるのはもう誰もが知っている事実なのである。
そりゃああんな美青年を引き連れて歩いていたら嫌でも目立つだろーね。
「羨ましいな……花崎さん」
そういえばいつだったか忘れたけど、一時期花崎歌は女子から嫌がらせをされていた。
でもある日を境目にぴたりと止んだことがあったっけ。
原因が分かんないからスルーしてたけど。
ま、主人公が目の敵にされるなんてよくある話。
私は関わりたくないから放置。
「まあウチらなんかじゃかなわないからね」
「だねー」
うーん、情報は香坂馨が花崎歌にクリスマスカードを渡すってことだけか。
少なくとも昨日はまだこの噂が流れていなかったから、実行は今日明日あたりか。
とりあえず見張っとくか。
でも私は断じてストーカーではないから。
☆・☆・☆
「はい」
「えっと……これは」
あの噂を聞いた次の日。
朝から明らかに花崎歌はそわそわしている様子だった。
それはもう、分かりやすくてツボに入った。
そうして昼休みになった途端、長谷良太からの弁当一緒に食べようという誘いを断って、屋上へ向かった。
長谷良太がめっちゃ落ち込んでてまたツボにはいった。
まあどれくらい落ち込んでいたのかという説明はいつか。
今、花崎歌と香坂馨が話してている。
「クリスマスカードだよ」
「いやまあ……はい」
シンプルな白い便せんだった。 何も描かれていない、真っ白で香坂馨にしては意外だ。
「歌ちゃん」
「なんですか?」
「俺はね、去年も一昨年もクリスマスカード、誰にも渡してないんだよね。この意味分かる?」
回りくどい言い方だ。
ウザいよね、ストレートに「君が好きだよ」くらい言えばいいのに、つまらん!
それはそれで気持ち悪いけど。
「いやあのまず、クリスマスカード渡す意味が……」
「知らないの?ジンクス」
「はい」
「……クリスマスの日、この学校の体育館に飾られるクリスマスツリーの前で告白して成功すると一生一緒にいられる、みたいな感じだったかな」
あらあら、バラしちゃった。
こういうのは当日とかにバラすのが王道でしょ。
このジンクスはベタベタだけどさ。
「こっ……こく、はく!?」
「うん、告白。で、このクリスマスカードはクリスマス一緒に過ごしませんか?っていうお誘いなわけ」
間接的に告白してるよねこれ、カウントされないの?
当日にすることが肝心?そーっすか。
「じゃ、良い返事待ってるよ」
「香坂先輩!?」
香坂馨は言うだけ言って、さっさと屋上から去っていった。
珍しいもん見れた、あの女好きも照れ隠しするんだね。
去るとき見えたあの顔、間違えなく照れていた。
……なんか古城兄の時も似たようなこと思ってた気がする。
一方残された花崎歌は、状況が理解できずにポカンとしていた。
今回の実況が暗いって?
そりゃあ、憂鬱なクリスマスが迫ってきてるから。
リア充が得するイベントなんて消えればいいのに。
実はというと最初は花崎歌はバッドエンドになってほしかった。
でももう現時点でバッドエンドフラグは成立してないから無理だろうな。
メシマズ。




