最初で最後の日常
朝七時、起床。
私はいつものように制服に着替え、朝食。
朝八時ちょい前、家を出る。
説明がいい加減だって?
だってこの物語の主人公は花崎歌だし。
この考えは変わることはない。
学校は電車で一駅のところにあるので電車に乗る。
満員ってほどではないけど朝だから混んでるな。
「今日の朝ご飯美味しかったね!」
「そうだね」
「毎朝毎朝、同じような会話をして楽しいか?」
お、朝っぱらから花崎歌に遭遇しました。
近くには楽しそうに笑う古城兄弟の姿がある。
「だってあの苺のソースとか」
「ピンポイントだな」
「う」
「まあまあ、でも本当に美味しかったねあれ」
平和だなぁ。
三人の会話を聞いているうちに駅に到着。
なんか面白そうなのでわざと三人の後ろに歩く。
尾行じゃない、行く先が同じなだけだもん!
しばらく歩いていると、前方から学ランを着た可愛らしい男の子が。
「あー、歌先輩!」
「香澄くん」
ニコニコしながら走ってきて、花崎歌に抱きついた。
あれだよね、年下ができる特権っていうの?
「おい、香澄!」
「……」
少し慌ててる古城兄と、無言が逆に怖い古城弟、しかも笑顔。
「相変わらず良い匂いするー」
「か、香澄くん……」
「じゃあまたね!」
花崎歌から離れ、手を振って香澄くんは再び歩き始めた。
三人もそれを見送り、また歩き始める。
それからは学校に着くまでとくに何もなかったので省略。
八時二十分、学校に到着。
三人はそれぞれのクラスに行き、花崎歌は一人になった。
教室に入る寸前、花崎歌は女子に話しかけられた。
「歌、おはよー」
「瑞穂ちゃん」
さて、お忘れかもしれないが彼女は花崎歌の親友である。
最初の方に出てきたじゃん?
そして彼女が本来の脇役のポジションである。
影薄いとか言っちゃいけない、あくまで脇役なのだから。
「どこ行くの?」
「んー?ちょっとトイレにね」
「そっか」
花崎歌は特に気にする様子もなく、教室に入っていった。
「歌ー!見て」
「おはよう良ちゃん、ってなにそれ」
「購買で売ってる幻のメロンパン、昨日買えた!」
良ちゃん兼変態は子犬みたいな笑顔で花崎歌にメロンパンを見せびらかしていた。
幻のメロンパンとは、毎週火曜日に五個だけ販売される。
有名なパン職人が作ったパンらしい……。
「わぁ、すごい!」
「だろ?後で歌に少しやる」
「ありがとう!」
私は盛り上がっている二人を見てみぬフリをし、自分の席に座る。
今日の一限は……古文か。
鐘が鳴り先生が入ってきた。
さてさて、今日も頑張りますか。
☆・☆・☆
「歌、食べよ」
「いいけど、瑞穂ちゃんは今日は弁当?」
「俺も混ぜてー」
「弁当だよー歌は?」
「今日は購買なの」
「へぇ」
「無視かよ!?」
長谷が泣ききそうになっているのを見て、笑う二人。
あー、私も今日購買だわ。
「じゃあ行ってくるね」
「いってら」
花崎歌が教室を出て行ったので、私も後ろからついていく。
尾行じゃない、偶然にも行く先が同じだっただけだもん!
階段を上がり、後渡り廊下を過ぎればってところで。
「花崎?」
真っ正面から歩いて来やがった。
キリッとした細目に黒髪、何考えてんのか分かんない表情。
神村武蔵。
「あ」
「どこかに行くのか?」
「うん、購買に」
「そうか。またな」
「またね」
会話短すぎ笑えない。
神村武蔵は攻略キャラとして失格なレベル。
花崎歌とすれ違い、そして私がいることに気付く。
「お前……も購買か?」
「よくわかったね」
神村武蔵は特に言及するわけでもなく私とすれ違っていった。
アイツは感づいてきているな、ちょっとヤバい。
そう思いながら購買に行くと花崎歌の姿。
混んでいて、なかなか声が届かないようだった。
「あの、鮭おにぎり……」
「コロッケパンひとつ!」
「俺はりんごジュースで」
「あたしはクリームチョコパンがいい!」
「あ、う」
すっかり他の生徒に弾かれてしまった花崎歌。
「あれ?歌ちゃん」
さすがフラグ建築士花崎。
そして今度は香坂馨の登場である。
「香坂先輩」
「どうしたのって聞く必要はないか、何がほしいの?」
「え?」
「購買、なんか買うんでしょ?」
「鮭おにぎりとチョコチップパン……」
「了解」
香坂馨は微笑み、颯爽と人混みの中へいった。
かっこいいなぁ女グセ悪いくせにさ。
数分して、また爽やかに香坂馨が鮭おにぎりとチョコチップパンを持って人混みから出てきた。
「はいこれ」
「え、わっ」
二つを投げて、綺麗に花崎歌の手へと。
もし落ちたらべちゃってなってたよねあれ。
「じゃあね」
「あ、ありがとうございます」
香坂馨はまた微笑みながら退場していった。
はぁ、イケメンは何してもさまになるよね。羨ましい。
「あれ?」
ふいに花崎歌が私を見た。
見つかっちゃったか、仕方がないな。
逃げるか。
私は花崎歌を少しだけ見たあと、背を向けて走った。
今日はもうそろそろやめておこうかな。
もうすぐ十二月になって、色々な出来事があるだろうし。
なんか妙に平和なんだよね、嵐の前の静けさっていうの?
これが最初で最後の日常だったのかもしれない。
花崎歌たちにとっても。
……私にとっても。
なんてね。




