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柳沢呉服店  作者: 神崎 紗穂
9/11

八、新橋色 祝宴を待つ

 私は成人式の振り袖なんていらない。

もし、それだけのお金があるのなら、一年間の海外留学費用に当ててもらった方がありがたい。そう考えていた。

 けれど、生け花の先生という身柄の母は納得してくれなかった。

こんな状態に陥ると通過儀礼は親の為に存在するのだと、つくづく思ってしまう。

まぁ、我が家の場合、お得意の呉服屋がある、ということも理由の一つかもしれない。

「こんにちは。彩さん、今日は娘の振り袖を仕立てたいと思って」

 夏休みも残り少なくなったある日、無理矢理連れてこられた店には、初老の女性と、私より年下に見える少女がいた。どうやら女性の孫らしい。

 母は顔なじみである女主人と話を始めてしまったので、私は仕方なく少女と話をしようと思った。

タイミングよく、少女の方から「どうぞご覧ください」と声がかかる。

「あなた、この店のお孫さんよね?」

「はい」

「高校生って聞いたんだけど、どこに通ってるの?」

話を聞いていると、どうやら彼女は私の後輩にあたるようだ。せっかくなので現在の様子を聞いてみる。

「生徒指導の山村先生ってまだいる?」

「いますよ。あの先生、厳しくて」

まだいるのか。公立高校の教員にしては、かなり長く留まっている気がする。しかも、相変わらず厳しいとは。


「お好きな物、ご覧になってね」と店主から一声かけられた。

この際だから、少女とのおしゃべりを楽しもう、私は内心そう思い始めた。

「ねぇ、私に似合う色、見繕ってくれないかな?」

多少驚いたようだが、すぐに私の好みの色や普段の洋服の色などを聞いてきた。

私は原色を着ることが多いこと、手持ちの服は様々な色であることを伝えた。

彼女は棚から数色の反物を取り出してきた。私の目を引いたのは明るく緑がかった青の反物。

話し相手になっていた少女が、私の肩に反物を合わせてくれた。

 私たちのやりとりを見ていた店主が微笑みながら、「天野さんちは寒色系が似合う顔立ちね」と言った。

「これは、何色ですか? あまり見ない色だけど綺麗ですね」

私がそう言うと店主が色の説明をしてくれた。

「新橋色といって明治末期から大正時代の新橋芸者の間で流行した色なのよ」

化学染料によって染められ、当時のハイカラな色として人気がでた。別名・金春色ともいう、と教えてくれた。なかなか、いい色かもしれない。


 仕方ない、高校の後輩であり見繕ってくれた彼女に免じて、振り袖、仕立ててもいいか。但し、予算は当初より控えめと母に忠告することを忘れずに。

 仕立て上がった振り袖を受け取りにくるのが、楽しみになったわ。


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