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柳沢呉服店  作者: 神崎 紗穂
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三、牡丹  想いを込めて

 本当は私、呉服屋の「孫」娘、なんだけどなぁ……。

そんなことを思いながら、今日はクラスメイトの松本千夏とおばあちゃんの家に向かっている。

事の起こりは期末テストの最終日ーー。


「ねえ、こずえの家って浴衣扱ってるの?」

「(正確にはお婆ちゃん家だよ)うん、季節ものだからね。でも、今から仕立てても間に合わないよ?」

「既成のセットものって、ある?」

「それなら、いくつか入荷してたはずだよ」

「そっかぁ。ね、今度の日曜日買いに行きたいんだけど」


 私の家からおばあちゃんの家までは電車で一時間程かかる。

それでも、多少は呉服に興味もあるし、何より色とりどりの呉服を見るのは楽しい。

今では高級品だから、日常的に呉服を着る人はいないけれど、文化の一つとしては勉強してもいいのかな、とも思う。


「こんにちは」普段は家の方から入るが、今日は店からだ。

「いらっしゃいませ」

 友人を連れて行くと伝えておいたので、既にいくつかの品物が準備されている。

千夏は少し緊張しているようだ。十代の私たちにとって呉服店は敷居が高いことこの上ない。


「千夏、どの色がいい?」

「うーん……紺かなって思ってるけど」

 おばあちゃんが用意してくれた数色の浴衣セットを見て、どうやら迷ってしまったらしい。

私が見立てるとすると、千夏には紺は似合わない気がするんだけど。


「他の色も試してみてくださいね」

目配せしたおばあちゃんの言葉は、どうやら私と同じ意見らしい。

 仕方ない。柳沢こずえ、(まだ未熟者ですが)一肌脱いであげましょう!

「千夏、これはどう?」

そう言って勧めたのは牡丹色の浴衣。羽織ってみると千夏のかわいらしい雰囲気によく似合っている。


「あら、いい感じね」おばあちゃんのお墨付きをいただいた。

「何より、初デートの花火大会にぴったりでしょ?」

「もう、こずえ! それは言わない約束じゃない!」

少し意地悪してからかってみた。照れた千夏の頬も牡丹色に染まっている。

けれど、ちょっと羨ましくもある。


 私にもいつか、彼と浴衣で花火大会、なんていう日が来るといいな。

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