二、青碧 永久に生きる
店番をこずえに任せ、私は茶の間で緑茶を飲みながら休憩していた。
店のチャイムが鳴ったのは、どうやらお客様が来店した様子。
こずえの足音が近づいてくるということは、私が出なければ話が通じない相手という証拠だ。
「おばあちゃん宛てのお客様です」
「分かりました。参りましょう」
商人としてはまだ、言葉遣いが不充分だ。それでも本人なりに努力しているのだろう。
「お待たせ致しました」
笑顔で店に出ると、そこには着物の包みを持ったお得意様が待っていた。
「彩さん、こんにちは。こちらのお嬢さん、もしかして?」
「ええ、孫なのよ。手伝いにきてるのか遊びにきてるのか分からないけれど」
「大きくなったのねぇ。以前見かけた時はまだ小学生だった気がするわ」
戸惑っているこずえを蚊帳の外に放り出して、私は会話を続けていた。
会話の相手は長年お付き合いのある天野深雪さん。生け花の先生をしている。
「実はね、彩さん。この着物なんだけど」
そう言って差し出された、薄い黄緑色の着物には見覚えがあった。
確か天野さんが生け花の先生として初めてうちで仕立てた着物だったのだ。
経年劣化に伴うくたびれは見えるものの、丁寧に扱われ大切に着て頂いていることがよくわかる。
「彩さんもご存知の通り、思い入れがあるからもう一度活かせたらと思って」
「そうね。染め直しでよろしい?」
「ええ、お願いします。何色がいいかしら?」
蚊帳の外に出ていたこずえが色見本を持ってきた。
奥に下がったところを見ると、お客様に出すお茶を準備する気らしい。
色見本を眺めながら会話を続けていると、お茶を持ったこずえが戻ってきた。
「こずえ、あなたはどの色がいいと思う?」
呉服屋の孫として見立てがきくか試してみた。
「……こちらの色はいかがでしょう?」
そう言って挙げた色は青碧。地色と染め直しの色の相性としては良い選択だ。
「天野さん、年をとったから地味めの色という選び方しなくてもいいのよ。
あなたはこういう鮮やかな色が映える顔立ちしてらっしゃるんだから」
「そうねぇ。彩さんのアドバイスって当たるものね」
迷っている様子だった天野さんに納得していただき、着物を預かった。
青碧か……。この着物の生まれ変わりにふさわしい色に見える。
どんなに時が過ぎても受け継がれるものは確実に存在しているのだ。