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柳沢呉服店  作者: 神崎 紗穂
10/11

九、薄萌黄 紡がれる絆

 今日は少し早めに店を閉めようとおばあちゃんが言い出した。

少し寒気がするらしく、お客様に風邪をうつしてしまうかもしれないと思ったようだ。

おつかいを頼まれたので、着替えぬままポストに葉書を出しに行く。八月の終わり頃、振り袖の注文にきた天野美紀さんへ仕立て上がりを連絡するものだ。

おばあちゃんの綺麗な字と共に鮮やかな黄緑色の着物を広げたマークが入っている。毎年お正月に私の家に届く年賀状にも同じマークが入っていたような気がする。

帰ったらおばあちゃんに聞いてみようと思いながら葉書をポストに入れた。

「あとは和菓子屋さんで大福五つだっけ」

 着物のまま店に立ち寄ったからなのか、和菓子屋さんのご主人に「呉服屋さんのお孫さんだね」と声をかけられた。

何だか顔なじみになってしまったようで少し恥ずかしい。早めに閉店することを伝えると、みたらし団子を二串おまけしてくれた。

「女将にお大事にって伝えてね」

私はお礼を言い、大福とみたらし団子を持って和菓子屋さんを後にした。


「ただいま戻りました」

 既に店の入り口は閉まっていたので、家の玄関から入った。着替えてからお茶にしようと言われ、私は洋服に着替えた。おじいちゃんが、ラップをかけた大福二つのった皿を仏前に持って行った。

「お疲れ様でした。どうぞ」

 おじいちゃんも加わり、三人でお茶を飲む。私が買ってきた大福は三つ並んでいた。串団子はお兄ちゃんへのおみやげになった。

 私は気になっていた葉書の着物マークについて尋ねた。

「あれね、おじいちゃんのアイデアなのよ」

おばあちゃんは、あのマークの由来を話し始めた。


 おじいちゃんと結婚してしばらく経った頃、先代(私のひいおじいちゃん)があるお客様宛てに仕立て上がりの連絡葉書を書いていた。

文字だけの葉書を見て、何となく物足りないと思ったおじいちゃんが着物のマークを入れることを提案した。

色は柳沢の名にちなんで薄萌黄色になった。着物の織り色として柳を表現するとき、たて糸は萌黄、よこ糸は白であることから先代が選んだらしい。

「でも、どうして真ん中に百合が描いてあるの?」

 すると、おじいちゃんが少し頬を染めて話し始めた。

「実は、ね……。彩さんが店主になった時、先代にお願いしたんだよ。お見合いのときに彩さんが着ていた着物の柄がずっと印象に残っていてね。それで先代に、彩さんの象徴だと思うから、代替わりしたことがお客様に分かるように白百合の印を入れてくれって」

「まぁ、初耳。そんなことがあったの?」

 おばあちゃんの言葉に照れたのか赤みが一層濃くなって、おじいちゃんはお茶を一口すすった。

「先代に、彩さんには内緒にしておいてくれと頼んだんだ。そろそろ時効かと思って」

照れ笑いするおじいちゃんを見つめ、おばあちゃんはうっすらと涙を浮かべていた。私は気づかない振りをして

「大福いただきまーす」

 半分に割って、かじりついた大福のあんこは品の良い甘さで、いつもよりおいしく感じた。

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