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躁鬱の古代都市

 旧竜華帝国、皇都ミリスティリス。

 太古竜人族が紡ぎ上げた都市を形容するなら、継ぎ接ぎの疾患都市という言葉が最も相応しいだろう。ポッカリ空いた平原の穴から拝めるその景色は病的に不安定で、一貫性のない衝動的な物だった。

 

 珊瑚の中に寺院があり、中央に進むにつれて文明的要素が薄れて行く。純白の大理石で出来た城下町が現れたと思ったら、逆十円ハゲのように花畑が咲き誇り、要所によっては中途半端に工事が放棄された未舗装の庭が広がる。ラティナはそんな光景に、懐かしさと同時に奇妙な息苦しさを感じていた。



「愚帝エルフリーデの庭、帝国末期の混乱ぶりが窺えるな。こんなに美しく歪んだ都市は二つとあるまい」



 毛蘭は崖の上からミリスティリスを一瞥し、嘲笑とも呆れとも言えない微妙な表情を浮かべた。エルフリーデの大陸分割、それは現代にまで続く内戦の発端であり竜華人民共和国を蝕む病の根源だった。彼女が大きく手を振ると同時に送迎用の簡易エレベーターがキュルキュルとこちらに向かってくる。最低限の木材と縄のみで作られた頼りないそれは、ゴンドラのように二人を都まで運んでくれた。少々ラティナは気分を持ち直し、今しか見れないであろう旧王家の景色を一瞥する。



「本当にグチャグチャだ。軍部や党員のみんなにはどう説明してるの?」


「”地殻変動による地盤沈下と長い歴史”、と言ってるよ。何も間違いじゃないだろう?」


「まぁね。一人の女がパラノイア患って国を引き裂いた、なんて言っても大半の人は受け入れられないよ」


「それも、”受け取りよう”ではあるがな」



 談笑している内に、二人はやがて下層に辿り着きヒョイとエレベータを降りた。ざくり…と気持ちの良い足音が二人を出迎えてくれる。その地面一帯が陸珊瑚の死骸で覆われ、真っ白な平原と化していた。恐らく陸珊瑚は後天的に生えたもので、寺院や町に倒れる銅像にフジツボのようにこびり付いている。不思議な事に竜人の亡骸は一才なく、ただ自然の残骸だけがそこにはあった。毛蘭は懐から、”ケータイデンワ”なる折り畳みの連絡器具を取り出した。

 

 以前ヘイロンから説明を受けた事がある。─今はスマートだの、ガラっけは古いだの─殆ど理解できなかったが取り敢えず現代の連絡用の品だと言うことは流石に理解していた。一応は自分用のケータイも持っているが、画面とボタンの位置を覚えるだけで思考回路が破裂してしまい、結局伝書鳩を使った古い連絡手段に頼っている。



(何でもかんでも”でじたるか”すれば良いってもんじゃないでしょうに…よく幾らでも偽造できそうなモンを信用できるな)



 ラティナは直に自分の目で見たものしか決して信じない性分だった。疑り深い点は父親に似たのだろう。魔法の時代ですら情報はセンシティブかつ最も重要な武器だった。


 ”真の賢者は情報を咀嚼して、常に自身の答えを出すものだ”……これが父の教えだ。残念ながら私はバカだったので、情報が機能する前に初見で殺す事が答えだった。エルフの大半は人間社会のスピードに置いてきぼりをくらい、文明に取り残される。そうして結局、どれだけ人間好きだろうと森に帰って閉ざされた世界に籠る。そして、一部の例外が無知な民を支配する。エルフ王や森の魔女が独善的なのは、民が長く君臨してくれる独裁者を求めるからだ。

 人から見れば、エルフは賢者に見えるだろうが実際は知っているだけだ。いつしか私は、新しい文化を追う事に疲れ保守的な思考に閉じ篭もるようになっていた。頭では分かっていたが、自分が新しい物に適応できない無能だと悟られるのが怖かった。



 毛蘭の呼びかけに応じて、紺絣の軍服の男がザクザクと音を立てて走ってきた。特徴的な丸眼に落武者の様なロン毛、顔は油でギトついており腐った匂いが鼻を刺した。その息は荒く、歯にはヤニがこびり付き何とも猥雑な印象の男だった。



「やぁやぁやぁ、毛同志にファン先生。丁度、発掘作業が佳境に入ったぁ所ですぅ。こちらにどぉぞ」



 随分とクセの強い語り口の男で、恐らくは大陸南部の出身だろう。竜国は他民族国家であり、各々の地域に根差した文化や方言がある。その気になれば方言に合わせた会話をする事も出来るが、この男に同胞扱いされる事に対する嫌悪感がそれを拒絶した。



「行こうか、時にラティナ。ファンロンの葬送は持ってきているね?」


「勿論、ここに」



─黒い(ブラックウィンドウ)



 ラティナは自身の影に手を翳し、中から一本の白金の王笏が現れた。やや無骨にも見える杖の先端には蓮の蕾を模した装飾が施され、持ち手には薄らと古代竜華文字が羅列されている。その重厚感は杖を中心に空気が歪む程に邪悪な物だった。



「おぉや?確か別名”神狩りの槍”と聞ぃていましたがぁ。王笏の間違いぇでは?」


「いいえ、これで間違いないわ。その物騒な名前私は嫌いなのよね。これは本来、現世に居座る不死者をあの世へ送り返すもの。ちょっち、強引にだけどね」



 不敵にニンマリと笑みを浮かべて尺を男に突き出す。反応は想像した程に豊かでは無かったがニュアンスは伝わったらしく、男がそれ以上追求してくる事は無かった。



(ヘイロンだったらもっと上手くやったんだろうな。私の顔って、そんなに貫禄ないかな?自認はニヒル寄りの美魔女なんだけど…)

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