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双子の分岐点  作者: キロヒカ.オツマ―


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別視点短編 近隣

最初は、音だった。


夜の決まった時間に、車が増えた。ドアの閉まる音が、同じ調子で続く。引っ越してきた頃は気になったが、三か月もすれば、時間を知る合図になった。音は、慣れる。


宗教施設は、静かなはずだった。だが静かさにも種類がある。人がいない静けさと、人がいて声を出さない静けさ。後者の方が、長く住むと分かる。後者は、息を詰める。


回覧板に名前は出ない。出るのは、駐車のお願いと、行事の案内だけ。お願いは増え、案内は減った。減った案内は、問題にならない。問題になるのは、増えたお願いだ。


ある年、花が多くなった。施設の前だけ、季節が早い。写真を撮る人が増え、撮られない角度が生まれた。角度は、自然に共有される。誰かが教えなくても、避ける場所は一致する。


噂は、薄く回る。濃くすると角が立つ。薄い噂は、会話の潤滑油だ。『事故らしい』『体調の話だって』『大事にはならない』。大事にならない噂は、生活を邪魔しない。


救急車が来た夜、窓は開けなかった。寒かったからだ。寒さは、理由になる。理由がある行動は、後悔を生まない。


翌日、張り紙が増えた。言葉は丁寧で、行間が広い。広い行間は、読み手に委ねる。委ねられたものは、各自で処理される。


子どもが質問したことがある。 『同じ人、二人いるの?』


大人は笑った。影の話だと言った。影は、時間で伸び縮みする。説明は、十分だった。十分な説明は、続きを求めさせない。


数年で、施設は景色になった。景色は、背景だ。背景は、前景の邪魔をしない。前景は、日々の買い物と、ゴミの分別と、天気予報。


ときどき、同じ背丈の人を見た気がする。見た気がする、は安全だ。確信ではないからだ。確信は、行動を要求する。


選挙の時期、来訪が増えた。黒い車、濃いスーツ。挨拶は丁寧で、目は合わない。合わない目は、責められない。責める理由がないからだ。


ある日、工事が入った。理由は耐震。耐震は、誰も反対しない。工事の音で、夜の音は消えた。消えた音は、戻らない。


住民は、今日も通る。決まった時間に、決まった道を。


異変は、異変でなくなる。


慣れたものは、生活になる。


生活になったものは、


誰の記憶にも、事件として残らない。

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