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双子の分岐点  作者: キロヒカ.オツマ―


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33/36

別視点短編 事務

彼女は、決裁権を持っていない。


持っていないが、触っている。触っているから、通る。通るから、残る。彼女の仕事は、書類を正しい順番で通すことだ。正しさは、内容ではなく順番に宿る。


所属は、総務。部署名は、どこにでもある。電話は多く、要件は短い。要件が短いほど、背景は長い。彼女は、背景を聞かない。聞かないことが、仕事の速度を保つ。


事故の翌日、差し替えが来た。差し替えは、珍しくない。日付、肩書き、注記。三点だけが変わっている。理由欄は空白。空白は、後で埋めるためではない。埋めないために空ける。


彼女は、朱肉を押した。音は、小さい。小さい音は、記憶に残らない。


失踪の扱いが保留に入った週、名簿が更新された。削除ではない。非表示だ。非表示は、削除より穏やかで、復元より強い。彼女は、チェックを外し、保存した。


実名が出た夜、問い合わせが殺到した。確認、確認、確認。彼女は、同じ文言を繰り返した。「現在、確認中です」。確認中は、最も長持ちする言葉だ。


宗教側からの書類は、丁寧だった。言い回しは柔らかく、責任の所在は薄い。薄い責任は、広く分散する。彼女は、付箋を貼り、回した。付箋は、責任を運ぶ。


警察からの照会は、形式を守っていた。形式を守る文書は、こちらも形式で返せる。彼女は、必要な範囲だけを写し、不要な部分を伏せた。伏せた理由は、求められていないからだ。


マスコミからの依頼は、期限が短い。期限は、判断を雑にする。彼女は、期限内に出せるものだけを出した。出せないものは、存在しない。


昼休み、彼女は弁当を食べた。テレビでは別の事故が流れている。画面の下にテロップが走る。彼女は、音を消した。音は、仕事を遅くする。


数か月後、内部監査があった。質問は、答えやすい。答えやすい質問は、安心を生む。彼女は、マニュアル通りに答え、合格した。合格は、日常を保証する。


彼女は、夜、帰宅する。鍵を開け、靴を脱ぐ。明日の予定を確認する。差し替え、非表示、確認中。予定は、静かだ。


彼女は、何も決めていない。


だが、彼女が通した順番は、


世界の説明を一つに固定した。


彼女は、そのことを考えない。


考えないことが、仕事だからだ。

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