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双子の分岐点  作者: キロヒカ.オツマ―


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別視点短編 監視者

彼は、名前を持っていない。


正確には、持っているが使わない。名刺も肩書きもある。ただ、使うと線が引かれる。線は、こちら側と向こう側を分ける。彼の仕事は、線を引かないことだ。


彼は通信の保全に関わっている。保全とは、守ることではない。崩れないように重さを配ることだ。回線が詰まれば、抜く。空きが出れば、埋める。内容は見ない。見ないという規則が、見ないという事実を保証するわけではない。


二分十七秒のファイルが、彼の前を通った。波形だけが残る。内容は、規則により破棄された。規則は、正しい。正しい規則は、疑われない。


彼は、削除ログを確認した。時刻、端末、経路。整っている。整っているほど、誰も触らない。触らないことで、存在は消える。


実名が出た夜、彼の端末は鳴らなかった。鳴らないことが、指示だった。鳴れば、介入になる。鳴らなければ、自然だ。


事故の報が来た朝、彼はコーヒーをこぼした。理由はない。理由がない動揺は、処理しにくい。彼は、机を拭き、ログを一行だけ確認した。確認したという事実だけが、残る。


失踪が保留に入った日、彼は回線の重さを調整した。検索は遅くなり、噂は分散した。分散は、沈静と呼ばれる。沈静は、成功として報告される。


彼は、港の映像を一度だけ見た。見たという記録は残らない。残らないから、責任も残らない。


数年後、内部監査があった。形式的だ。形式は、現場を守る。彼は、質問に答え、チェックを受け、合格した。合格は、過去を正当化する。


夜、彼は歩く。駅前のスクリーンに、別の炎上が映る。人々は立ち止まり、撮り、去る。彼は立ち止まらない。立ち止まると、見たことになる。


彼は、時折、波形を思い出す。二分十七秒。間。沈黙。音は、消せない。


だが、音が消えないことと、世界が変わることは、別だ。


世界は、今日も説明可能だ。


彼は、線を引かない。


それが、彼の仕事だ。

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