第三章 別々の世界
宗一が育ったのは、光輪会が運営する広大な施設だった。
朝は祈りから始まり、夜は講話で終わる。笑顔は管理され、感情は指導される。宗一は“選ばれた子”として扱われ、疑問を持つ前に答えを与えられ続けた。
一方、黒崎組に引き取られたもう一人は、怒号と酒の匂いの中で目を覚ました。
名前は黒崎 恒一。泣けば怒鳴られ、黙れば殴られる。だが、生き残る術も教えられた。誰を信じ、誰を裏切るか。力の序列。沈黙の価値。
奇妙なことに、二人は同じ癖を持っていた。考え込むとき、左の眉がわずかに動く。声のトーンも同じだ。周囲は気づかないが、本人たちの中には、説明のつかない違和感が残り続けた。
宗一は、時折、鏡に映る自分に既視感を覚えた。まるで別の人生を生きている“もう一人”がいるような感覚。
黒崎は、抗争の夜、ふと祈りの言葉を口にしかけて舌を噛んだ。誰にも教わっていない言葉だった。
二人の世界は完全に分断されているようで、見えない糸で繋がっていた。
その糸が、いずれ引き寄せられることを、まだ誰も知らない。




