表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子の分岐点  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/36

第二十八章 失踪

姿を消すには、二通りある。


一つは、逃げること。もう一つは、見えなくなることだ。


夜は静かだった。事故の余熱が冷え、街は通常運転に戻りつつあった。病室の窓から見える交差点で、信号は規則正しく切り替わる。秩序は、回復したように見える。


宗一は、荷物をまとめなかった。服も、通帳も、携帯も置いたまま。置いていくことが、痕跡になると知っていたからだ。失踪は、準備が見えると疑われる。準備が見えない方が、事故や衰弱や衝動に回収される。


彼は、病室を出た。看護師は、名を呼ばなかった。名は、もう重すぎた。


一方、港では黒崎が同じ夜を迎えていた。彼は、動かないという選択をした。動けば、矢印が自分に向く。動かなければ、空白が意味を持つ。


失踪は、すぐには報じられなかった。警察は、所在不明として処理した。成人男性。事件性不明。事故の後だが、因果は証明できない。保留が、最も秩序に優しい。


宗教は、祈りの場を設けた。行方不明者のための祈り。名は伏せた。伏せることで、誰のための祈りか分からなくする。分からなければ、責任は拡散する。


マスコミは、扱いを遅らせた。事故の次は失踪。連続に見える。連続は、構造を疑わせる。疑わせると、名前が戻ってくる。


SNSでは、二つの仮説が並走した。逃亡説と入れ替わり説。どちらも証拠はない。だが、同時性の記憶が、想像を補う。


黒崎は、港の倉庫で一枚の写真を破った。顔は、写っていなかった。写っていないことが、彼を苛立たせた。消えたのは、人ではなく、参照点だ。


宗一は、街を歩いた。帽子も被らず、俯きもしない。見えなくなるとは、隠れることではない。見えても、誰にも拾われない位置に立つことだ。


深夜、彼は橋を渡った。川面に光が散る。立ち止まらない。立ち止まると、目撃になる。


翌朝、病室のベッドは空だった。シーツは乱れていない。窓も閉まっている。説明できる失踪だった。


警察は、捜索を最小限にした。理由は、ない。理由がないことが、理由だ。


残された側は、息をする。呼吸は続く。だが、比較の対象が消えたことで、世界は急に静かになった。


双子の片方は、姿を消した。


逃げたのか。


終わらせたのか。


それとも、役割を引き受けに行ったのか。


秩序は、答えを必要としない。


夜は、何事もなかったように明けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ