表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子の分岐点  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/36

第二十六章 名前

名前は、刃より重い。


それまで誰も言わなかった。言えなかった。言わないことで、均衡が保たれていた。音はあっても、顔は曖昧だった。役職はあっても、固有名詞は空白だった。


夜は、雨だった。雨は、言葉を軽くする。誰もが、明日には消えると思うからだ。


発端は、地方局の深夜枠だった。視聴率は低い。だが、見ている層が違う。内部者、関係者、そして、待っている者。


若い記者は、原稿を二度書いた。名前のある稿と、ない稿。デスクは迷った。法務は首を振った。だが、編成は言った。「今なら、通る」


オンエア直前、一本の電話が入った。声は、落ち着いていた。条件提示。圧力。取引。すべて、丁寧だった。


——「守りたい秩序があるのは、分かる」


——「だが、守られてきた秩序の名前は、誰だ」


電話は切れた。決断は、残った。


番組は始まった。VTR。二分十七秒の波形。比較。沈黙。司会者の喉が鳴る。


そして、言ってしまった。


一人の名前。


フルネーム。役職。過去の肩書き。現在の立場。曖昧にしなかった。ぼかさなかった。一度だけ。


スタジオの空気が変わった。誰かが息を吸い、誰かが目を伏せた。司会者は、次の文を読めなかった。


不可逆だった。


名前が出た瞬間、全てが遡及する。過去の写真、会合、献金、宴席。偶然が、連続に変わる。


宗教は、即座に声明を出した。距離を取る文言。個人の逸脱。組織の関与否定。だが、名前は声明を読まない。


警察は、動いた。動かざるを得なかった。事情聴取、任意、聴取。違法性は未確定。だが、名前が出た以上、手続きは始まる。


裏社会は、静かに配置を変えた。名前は、矢印を作る。矢印は、報復と保身の方向を決める。


マスコミ内部では、祝杯と葬式が同時に開かれた。数字は跳ねた。だが、戻れない者が出た。


SNSは、爆発した。正義、私刑、検証。正確さは置き去りだ。だが、止められない。


宗一は、病室でその名前を聞いた。胸が痛んだ。終わらせる決断が、輪郭を持った。


黒崎は、港で同じ名前を呟いた。笑いは、なかった。名前は、商売を壊す。


第三者は、手を引いた。商品は、炎上で儲かる。だが、実名は火力が過ぎる。


その夜、誰かが越線した。


名前を出した者か。


出させた者か。


止めなかった者か。


不可逆なのは、結果だけだ。


朝になっても、雨は止まなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ