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双子の分岐点  作者: キロヒカ.オツマ―


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第二十二章 再演

同時性は、偶然の顔をして現れる。


昼下がり、地方都市の二つの場所で、同じ顔が目撃された。片方は宗教施設の公開行事。もう片方は、港に近いホテルのロビー。距離はある。移動時間は、説明を拒む。


最初にざわめいたのは、現場ではない。写真だ。


スマートフォンに収まった顔は、光の質で印象が変わる。礼拝堂の白は、穏やかに見せる。ロビーの間接照明は、影を強める。だが、骨格と癖は隠れない。同じ瞬間に、同じ瞬き。


マスコミは、判断を迫られた。裏取りはできない。否定もできない。最も安全な選択は、扱わないこと。だが、扱わない理由が、今回は弱かった。


編集部の端末に、匿名の資料が届く。日時、カメラ番号、配置図。証拠ではない。再現の設計図だ。


警察本部では、アラートが鳴った。二件の目撃情報が、同一時間帯に重なる。鷲尾は、画面を閉じた。見るほど、越線が近づく。


「偶然だ」


誰かが言った。誰も反論しない。反論は、調べる意思を意味する。


宗教施設では、広報が動いた。写真は古い。映像は編集。時間は前後。説明の選択肢を、いくつも用意する。宗一は、病室から短い指示を出した。


——笑顔を。


彼は知っている。恐怖は、隠すと増える。笑顔は、消費される。


港のホテルでは、黒崎が姿を消していた。姿を消すのは、彼の役割ではない。役割が変わった証拠だ。代わりに、似た体格の男が、同じ角度で立っていた。


この再演には、指揮者がいる。


誰かが、同時に見せることを選んだ。入れ替わりではない。並べること。疑念を確定させないための、最も残酷な方法。


SNSの《共鳴》が、久しぶりに跳ねた。怒号はない。質問だけが増える。


《移動時間は?》 《照明条件は?》 《瞬きの癖は?》


質が、刃に変わる。


夕方、記者会見が開かれた。質問は制限。指名は事前。時間は短い。宗教側の説明は、整っている。整いすぎている。


同時刻、別の場所で、関係者向けの説明会が開かれた。裏社会の言語で、同じことが語られる。


——偶然は、使える。


夜、編集部の若い記者が、あの資料を再び開いた。設計図の余白に、手書きの癖がある。数字の丸み。線の引き方。内部の癖だ。


彼は、原稿を二つ用意した。出す原稿と、出さない原稿。出さない方に、真実が多い。出す方は、安全だ。


未明、宗一は、病室の天井を見ていた。笑顔の指示が、遅れて届く。遅れが、再演を歪ませる。


黒崎は、別の港で、潮を見ていた。顔は見せない。見せれば、完成する。


翌朝、二つの写真が、並んで流れた。大手ではない。地方紙と、個人アカウント。だが、並んだ。


否定も肯定も、同時に走る。社会は、確信しないことを選ぶ。


再演は、成功した。


真実は、確定しなかった。だが、疑念は固定された。


固定された疑念は、次に何を呼ぶか。


それを決めるのは、守る側ではない。攻めに転じた側だ。

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