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双子の分岐点  作者: キロヒカ.オツマ―


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第十七章 反響

同じ夜、同じ時刻、二つの部屋で、同じ違和感が生まれた。


宗教施設の最上階。遮音の効いた執務室で、宗一は一人、椅子に深く腰を沈めていた。机の上には、祈祷の予定表と、寄付の集計表。どちらも整っている。数字は嘘をつかない。嘘をつくのは、人だけだ。


彼は、理由もなく喉を押さえた。声が、ほんのわずかに低くなった気がした。録音を再生する。自分の説法。抑揚、間、呼吸。完璧だ。だが、一拍遅れる瞬間があった。以前にはなかった癖。


「……誰だ」


問いは、部屋に落ちて消えた。


同じ時刻、港の外れ。倉庫の二階で、黒崎は電話を切った。指示は通った。金も流れた。警戒線も薄い。仕事は順調だ。なのに、胸の奥がざらつく。鏡に映る自分の顔を、しばらく見つめる。


目の下の影。口角の上がり方。昔からの自分だ。だが、**目線が安定しすぎている。**獲物を見るときの揺れが、消えていた。


黒崎は、舌打ちした。


二人は、互いの存在を知らない。知るはずがない。だが、その夜、同じ夢を見た。


白い廊下。蛍光灯。消毒液の匂い。足音が二つ、重なる。顔は見えない。声もない。ただ、同じ歩幅。


宗一は夢の中で、立ち止まった。振り返ろうとした瞬間、肩に触れられる。重さは、覚えのあるものだった。自分の重さ。


黒崎は夢の中で、前に進んだ。背中に視線を感じる。追われているのではない。並んでいる。


目覚めは、同時だった。


宗一は、汗を拭い、机の引き出しを開けた。幼い頃の写真。双子の痕跡は、すべて処分されたと聞いている。だが、一枚だけ残っていた。角が切られた写真。隣の存在が、物理的に消された跡。


黒崎は、冷蔵庫の水を飲み干し、古いスマートフォンを起動した。回線の切れた端末。誰とも繋がらない。だが、メモ帳に、見覚えのない一行があった。


《間が、ずれた》


いつ書いた? 黒崎は、記憶を探る。見つからない。だが、意味は分かる。自分の中で、何かが同調し始めている。


宗一は、翌日の説法の原稿に、手を入れた。言葉を削る。余白を増やす。**奪うのではなく、委ねる。**思考が、微妙に変わっている。


黒崎は、部下の報告に、珍しく耳を傾けた。怒鳴らない。数字を確認し、次を指示する。合理的すぎる自分に、違和感を覚える。


二人は、その夜、同時に鏡から目を逸らした。


似ているからではない。似ていない部分が、増え始めていることに気づいたからだ。


宗一は、祈りの言葉を口にし、途中で止めた。最後の一節が、喉に引っかかる。黒崎の脳裏では、銃の重さが、やけに軽く感じられた。


交錯は、接触ではない。情報でもない。癖と間が、ゆっくりと移動していく。


その夜、二つの監視カメラが、別々の場所で、同時にフレーム落ちを起こした。理由は、記録されない。


残ったのは、言葉にできない違和感だけだった。


それは、二人の中で同時に芽吹き、やがて外へ滲み出る。誰かが気づく前に、もう一段、深く。

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