聖なる日
祐一郎が先にホテルの玄関から外に出て、菜々香はその後を追った。
ホテルの外観は色鮮やかに光り、五時には暗くなる冬の季節では長い夜の幕開けをこうして、祝っていた。それに今夜はクリスマスであった。それだけにより美しく光り輝いているのだろうと思われた。
祐一郎のコートの裾から入る冷たい空気が足に伝わると、ここが冷たい土地なのだと今になって実感を始めた。
そんな中に暖かい思いを持って祐一郎は菜々香の手を握った。菜々香の表情が外の暗闇とホテルの色輝く装飾の光によって眩しく見えなかった。
だが、その漏れた声は決して不愉快なものではないことは祐一郎にはわかっていた。
バス停に二人は着き、目の前を通る車を見て、その通り過ぎた強い風に菜々香は髪をなびかせ、祐一郎の鼻先に細やかに触れた。一瞬に匂う夜の時に鼻が味わう匂いがこの時にも感じられた。
バスが来ると、その冷たい街から逃げるように二人はそそくさにバスへ入り込んだ。空いてはいないが、混んでもいない。二人は椅子に座り、祐一郎は窓際から見える街の輝かしさに目をやった。
寒そうではあるが、皆が幸せそうであった。寒いから暖かくする。暗いから、明るくする。それだけなのに、どうしてもこうも、淡い小さな最上級の幸せを手にすることができようと思っていた。だが、祐一郎も左肩に触れる暖かみはその淡く小さな最上級の幸せそのものであることはわかっていた。
やがてバスから降り、足をその地へ降ろした祐一郎は菜々香の方を見た。寒そうに体を丸める彼女は少女のようで美しかったのである。
軽い坂の丘を登り、その暗闇から突如として姿を現すその輝く無数の美しさの集まりが二人の瞳を照らした。
小さな森にぽつりぽつりと輝く灯りは天使のようで、握っている手の感覚がすうっと消えていくように感じた。母の中にいた時のような赤子の感覚を思い出すようであった。
小さな声が漏れていた。それがどんな言葉であったか一瞬にして白い息のように消え去った。菜々香も祐一郎を見ていたが、やがてはその事を気に留めず、祐一郎を優しく導くように歩いていた。
暗闇に光るツリーがあった。その後ろにある教会を遮って目立つそのツリーはマリアのような抱擁を思った。それは菜々香も同じであった。決して男であるから、母を思うということではなかった。女でも母を思う気持ちは同じであり、やがては自分の姿となるそれを焼き付けるように見続けているのである。
色々な願いや思いがそこにかけられていて、全てを叶える幸せにしか成り得ない尊き、日本のベツヘルムがここに存在しているのである。
寒さも冷たさもこのために用意した試練のようで、その美しさに沸く感性が暖かみを表し、灯りの暖かさが火のような熱さを持ちながら燃えるように光っている。
そしてランタンをお互いに手に持ちながら歩く、祐一郎と菜々香は若き今でしか得られない幸福を感じていた。長い年月を掛けて、思い出として再び蘇らせるための火付けをこうして二人で手を取り、始めたのだ。
星が手に取れるほど近くにあるそれが雪にも見え、天使のようにも見える。
酔いが回ったような地に足をつけてないような羽が背についた感覚があった。飛んでいきそうなる思いを菜々香の握った手が止めてくれる。
「ああ、良い寒さだ」
「それは幸福の灯りのせいではないの?」
灯りが周りの人々を消してしまうように隠していた。
祐一郎はここで菜々香の肩に手をやって口づけをしてしまいそうな衝動を抑えることに必死になった。




