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[009] 林道での戦い

 一行は王都を離れ、隣接するリューベインの街へと進む。馬車には大量の武具が積まれている。ルック達は馬車を引きながら徒歩で移動する。山間部の細い林道に差し掛かり、賊の襲撃に警戒を強める。


林道を進み、山の奥深くに入った。遠くで小さな音がした。わずかに空気を裂くような音の後、矢が馬車の幌に突き立った。暗い林道から足音が忍び寄り、その足音がルック一行を包囲する。


「積み荷を捨てて逃げるなら見逃すぜ」


山賊の一人が剣を片手に近づき、いかにも見下したような笑みを浮かべた。その男にルックが歩み寄り、無言で剣を抜くと、男の首が宙に舞った。


――これが合図だった。


ルックの元に集まった元トールセン商会の護衛は皆、エイドル・トールセンに訓練された腕利きの剣士であり、王国正規軍の猛者にも引けを取らない武人である。


瞬く間に、ルック達を囲んだ山賊は数を減らし、まったく予想していなかった反撃に腰砕けになっていた。


ところが、その護衛をものともせず暴れまわっている大男がいる。


「剣の使い手がいるって聞いたが、こんなもんか?」


大男は剣聖コルネウスが振るう大剣と遜色ない業物を振り回し、腕利きの護衛を薙ぎ払う。護衛達もさすがに手練れの集まりで深手を負う者はいないが、大男の扱いには苦慮している様子だ。


「驚いたな。お前たちを簡単にあしらう人間がいるなんて……」


護衛に下がるよう指示し、ほぼ同時にルックが大男の懐に踏み込む。大男は、剣で受けては間に合わないと即座に判断し、ルックの剣を右手の籠手で受け、左手で掴もうとした。


しかしルックは剣を持ち換え、掴みかかる左手を右手で掴んで一気に引き落とした。


大男の体勢がわずかに前のめりとなった隙を見逃さず、ルックは懐に飛び込み半円を描くように体を捌く。左手を大男の手の甲に添えて地に落とした。


四方投げが決まり、これで大男を制圧したかに思えたが、男は極められた腕を強引に伸ばし、ルックを蹴り上げた。ルックの体が宙に舞い、同時に鮮血も舞う。その血はルックのものではなく、蹴られた際にルックの剣が大男の脇腹をかすめたものだった。


「すごいな! 投げられたのも初めてだが、蹴り上げた瞬間に剣を払う身のこなしも普通じゃねぇ」


大男に与えた傷は浅かった。大男は傷を気にすることなく大剣を叩きつける。その扱いは棍棒のようで、刃が当たらなくても押し潰せば良し、といった一撃だ。


その一撃を受け、正中線から外しつつ、弾かれた勢いを利用して体を回転させつつ剣を逆袈裟で払う。


振り上げた剣が大男の胸に喰い込み、ルックの手元には確かな手ごたえが残る。


だが目の前には大剣の影。


無意識に剣で受ける。


大男の剣を流せなかった。ルックの両腕が痺れた。


(師匠のもとであれだけ鍛練を積んでも、山賊ごときにこの有様か……)


己の未熟を思い知らされ、バルバリア商会を誘い込むために大々的にルック・トールセンの名を王都で喧伝した自分が恥ずかしくなった。


世間は広い……己の剣技など、村を出てしまえば山賊程度の技量だったのだ。


その一方で、大男も自分よりはるかに小柄な人間にここまで苦戦していることに驚いていた。


「相当に剣を使う人間がいると聞いたが、ここまでとは思わなかった……。お前がルック・トールセンか?」


「あぁ、俺がルックだ。お前は、バルバリア商会の人間か?」


「おれはバルバリア商会の人間ではないが、バルバリア商会から賊のために武具を調達している連中の討伐を依頼されてはいる」


「馬鹿げたことを言うな。この武具輸送は商人ギルドから正式に依頼を受けている。それにバルバリア商会の悪行を知らないわけでもないだろう?」


「もちろんよく知っているさ。お前も知っているのか? バルバリア商会は金払いがいいってことを」


「結局は金かよ。それならバルバリア商会の倍出してやる。俺達に加われよ」


大男が悩む仕草を見せると、山賊の一人が大男の影から躍り出てルックに剣を振るう。


しかしその剣はルックに届かず、山賊は大男の一刀で真っ二つに切り下げられていた。


「バルバリア商会は気に喰わないし、そっちについてやるよ。でもいいのか? 俺は高いぜ」


「これからいくらでも稼げるさ」


大男が寝返ったことで、形勢は一気に傾いた。とても太刀打ちできないと判断した山賊が逃げ出すまでそう時間はかからなかった。深追いはせず状況を確認する。


「結局、こちらのケガ人は全部お前のせいだぞ」


「仕方ないだろ、こいつら全員が一流の剣の使い手なんだ。手は抜けなかった」


大男が負傷した護衛に手を差し伸べ、すまなかったと謝る。


案外、素直な性格なのかもしれない。


「俺はグレンだ。よろしくな、ルック。上手い飯と可愛い女の子を用意してくれる限り、お前に使われてやるよ」


「飯と金は用意するが、女は自分でがんばってくれ。それで、グレンはバルバリア商会にいくらで雇われたんだ?」


「言っとくけど、吹っ掛けてないからな。心して聞けよ。金貨二百枚(二千万円相当)だ」


普段から心の動揺を表に出さず冷静を保っているルックの表情が大きく崩れる。


グレンはルックの肩を叩き、「金貨四百枚、ツケにしておいてやるよ」と言って大きく笑った。


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