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[024] 救難信号

 『光標(こうひょう)の魔導具』は、指輪の形をした二対の魔導具で、いずれかの指輪を発動させると、所持者にのみ視認できる光の直線が空間を貫き、離れた場所にいる互いの位置を示し合う。


ルックの『光標の魔導具』が反応し、指先から一直線に光が伸びた。対となる指輪は、エルス醸造所に何らかの異変が起きた際、連絡を受けるためにニコラスに手渡してある。


光の指す先に目を凝らす。強風に煽られた炎が渦を巻き、光の発信地を今にも呑み込もうとしている。


「どうしたルック?」


「光標の魔導具が反応した。……あそこ。橋の先にニコラスがいる」


グレンとミラは、ルックの指し示す方向を凝視し、すぐに事態の深刻さを悟る。


「まずいな、こりゃ。橋に人が殺到して、大渋滞が起きてるじゃねえか」


「グレン、積み荷用の縄を全て集め、出来るだけ人数を集めて運んでくれないか」


「縄で橋でも作るのか? それは無理ってもんだぜ」


「大丈夫。多分何とかなると思う……」


ルックの指示に釈然としないグレンだが、言われた通り、縄を集める。『爆炎の魔導具』の捜索に人手を()いていたから、それほど多くの人間は残っていなかった。それでも十人ほどが集まり、荷台に縄を積み込み、準備を整える。


その間、ミラはルックに呼ばれ、ルックと共に部屋に(こも)ってしまった。


 しばらくたち、水のローブを(まと)った、女性の姿のルックが、ミラを連れて戻ってきた。


「まさか、水の魔導具で消火するつもりか? それはいくらなんでも無理だろ」


呆れるグレンをよそに、黒く長い髪をなびかせ、ルックが駆け出す。


「ちょっと、説明してくれよ!」


仕方なく、グレンと商会員たちは、縄をたっぷりと積んだ荷台を押しながら、慌ててルックの後を追った。


* *


 目の前には絶望的な光景が広がっていた。一本しかない橋に人々が殺到し、我先にと押し合ううち、すでに何人かが踏み殺され、無残な姿を晒していた。川幅は三十メートルほどだが、先日までの大雨で水かさが増し、流れも激しい。泳いで対岸に渡るには、相当な水練の手練れでなければ難しいだろう。


「ミラ、出来るだけ力の強そうな男たちに救助活動を手伝うよう頼んでくれ。グレンと他の者は、岸に縄を並べてくれ!」


ハープの音色を思わせる澄んだ声が大きく響き、ミラが駆け出し、グレンも積み荷から縄を降ろし始めた。


「……いつもその声で指示してくれれば、やる気もより出るんだけどな」


冗談めいた台詞(せりふ)を吐くグレンだが、胸中では、ルックの意図が分からず、迫りくる炎と、逃げ場を失った人の群れに、胸の内を焼かれるような不安が走っていた。


 川沿いは石で舗装され、切り揃えられた石積みの護岸(ごがん)の上には芝生が敷き詰められている。普段は王都民の恰好の散歩コースとなっている芝の上にルックは静かに立つ。


川面(かわも)へと手をかざす。


白い光がルックの手を覆った。


氷獄(ひょうごく)の魔導具』


『爆炎の魔導具』と等しく、国家から指定を受けた国宝級の魔導具。


白銀の光は強さを増し、周囲の空気が渦を巻く。対岸の人々もその光に気付き始め、ざわめきが広がる。


次第に空気の渦に雪と(あられ)が混ざり、冷気の渦が川面へと届き、川が凍り始める。氷は瞬く間に広がり、その勢いは増し、ぶつかり合う氷塊がバキバキと音を立てる。


ルックがありったけの魔力を叩き込む。


『氷獄の魔導具』は、それに応えるかのように、出力をさらに高め、氷が対岸へと届く。


その光景に気づいた人々から、歓声が湧き上がる。


「頼む……! もっと凍らせてくれ! 俺達に道を作ってくれ!」


やがてルックが魔力を使い切り、白銀の光が収まった。


一帯の川は完全に凍結し、大勢の人を運ぶ橋となっていた。氷によって()き止められた上流の水は流れを変え、延焼地帯へ雪崩れ込み、燃え広がろうとする炎を押し戻した。



 ミラの呼びかけに応じた力自慢の男たちが、縄を手にして避難民を引き上げる。状況を把握した男たちは、我先にと救助活動に身を投じ、グレンが用意した縄の本数をはるかに上回る勢いとなる。川岸にずらっと男が並び、やがて男たちは、石積みの護岸の下に降り、縄を伝って護岸の石積みを登ることが困難な子供や老人、力の弱い女性の手助けを始める。


そんな中、グレンの元に見知った顔が近づき礼を述べる。エルス醸造所のヨーゼフとクレオだった。


ラルフたち、エルス醸造所の警護にあたっていたトールセンの護衛も集まる。


だが、そこにニコラスの姿はなかった。


「グレンさん、ニコラスさんからの伝言です。見覚えのあるバルバリア商会の傭兵が何人か集団で、東の方向に駆け抜けて行きました。後を追い、異変があれば『光標の魔導具』で知らせるとのことです」


クレオの伝言を聞き、順調な救助活動に気を緩めていたグレンの顔色が変わる。


「クレオ、伝言感謝するぜ!」


バルバリア商会の傭兵が向かっている方角は、第一王子派と第二王子派の内紛を止めるべく、第一王子スネル・ホルフィーナ率いる近衛兵団が向かう先と一致する。


『爆炎の魔導具』で狙う標的は、スネル・ホルフィーナで間違いないだろう。


グレンは事の次第をルックに話し、事態を把握したルックは、護衛の一人に伝令を命じた。


『爆炎の魔導具』の捜索を中止し、第一王子スネル・ホルフィーナを護衛し、バルバリア商会から『爆炎の魔導具』を奪取せよ。


王都の騒乱は、最終局面を迎えようとしていた。

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