[014] 悔恨の夜
王都の夜空一面に花火が次々と打ち上がり、衆目を楽しませた。地上から噴き上がる黄金色の花火と、宙空で激しく煌めく、幾千もの火花が夜空を埋め尽くし、建国祭のフィナーレを飾った。
広場を埋め尽くした人々は、思い思いに帰路につく。至る所に並んだ屋台では、今日の残りの品を吐き出そうと割引価格で客を呼び込んでいる。
ルックとレミも、少しだけ屋台を見てからラフィナ商会の本店へ足を向けた。
今日の出来事を語り合い、来年の建国祭も二人で来たいなと、どちらからともなく自然に口をついた。
建国祭の会場から離れ、往来する人の数も少なくなってきた。細い路地は使わず、出来る限り大通りを往くようにしている。道幅が広ければ、護衛は往来の人々の中に潜ることができるし、ルックも通行人と距離が取りやすい。
路地のない、一直線の大通りを進んでいた。前方から五人くらいの集団、後方からも同じくらいの集団が近づいてくる。大した人数ではないと、気にも留めなかった。前方の五人とすれ違った。
鞘から剣が抜き放たれる、独特な音がした。
十分に距離は保っている。
ルックが抜き放った剣と、男の剣が交錯し火花が散った。背後から駆けて来る足音、ルックを挟み込むつもりだろうが、護衛の一人が立ちふさがり、それを阻んだ。
刺客たちの声が響き、続いて事態を理解したレミが悲鳴を上げる。驚いた通行人たちが一斉に逃げ惑う。そのうちの一人が、刺客の一人とぶつかり、刺客に蹴り飛ばされた。
みすぼらしい姿をした男が、ルックたちの前に転がる。みぞおちを蹴られたのか、息ができずにその場でうずくまった。すでに護衛は、ルックの周辺に集まり、刺客たちと剣を交えている。
レミの背を建物に寄せ、背後からの攻撃に備えるため、位置を変えようとレミの手を引いた。
ルックの視線がレミに移り、うずくまった男から目線を切ったが、男の動く気配に気づき、再び目線をみすぼらしい姿の男に移す。
視界に男の手の平、その手の平が光に包まれている。魔法――、魔法なら剣で払える。光が放たれた刹那、ルックは剣を振るい、魔法を払った……はずだった。
「ただの光だけ……だと!」
光がルックを包み込んだ。視界を奪われるほどの光ではない。直撃したが、痛みもない。刺客の一人が飛び込んできた。
「目くらましのつもりなら、当てが外れたな!」
刺客を斬り下げようと剣を振り下ろそうとしたが、体が思うように動かない。
次の瞬間、全身に激痛が走る。体が動かない、斬られる……。
刺客の前に何かが躍り出た。渾身の体当たりを受け、刺客の体勢が崩れた。しかし、踏みとどまった刺客の剣が斬り下ろされる。
レミの胸元から血が噴き出し、仰向けに転がる。
わずかに戻った感覚を頼りに、剣を突く。剣は確実に刺客を捉えたと思ったが、傷は浅く、倒すには至らない。剣を構え、刺客に振り抜くが、剣が重い。まるで自分の体では無いようだ。刺客の剣を受けるだけで、手がしびれ、体の軸がぶれる。
早くレミの血を止めないと……。
気は焦るが、刺客の剣を受け流すのが精一杯だった。
駆け付けた護衛が、刺客の後ろから剣を振り下ろす。背中から袈裟斬りにされた刺客が悲鳴を上げ、崩れ落ちる。その横には、魔法を放った男も、護衛に討たれ、転がっていた。すでに息は絶えているようだ。
「レミの血を止めてくれ! 白魔導士はいないのか!?」
差し迫った状況にもかかわらず、声の異変に気付く。いつもより高い声色、まるで女性のようだ。
レミの胸元に手を当て、止血を施すが、いっこうに止まる気配はない。
「……ルック? ルックなの?」
「ああ! 俺だ! 傷は浅いから心配するな!」
血を失い、真っ青な顔をしたレミがこちらをじっと見つめる。
「わたしより美人にならないでよ。……ごめんね、温泉とか、来年の建国祭とか行けそうにないや」
レミの腕がルックを抱き寄せる。
ルックの腕がレミを包む。その腕の中でレミの息と鼓動がゆっくりと消えていった。




