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[010] 大貴族と傭兵団

 「つまり、ルックの師匠は剣聖コルネウスってことか。それならその強さも納得だな」


「いや、グレンこそ驚きだ……お前があの『ハインセル傭兵団』の一員だったとはな」


ハインセル傭兵団は、この国でたった四人の『剣聖』の一人、剣聖ハインセルの傭兵団だ。ハインセルに認められた者だけが入団を許され、戦時には王国の遊撃部隊として、平時には貴族の警護や近衛兵の訓練を請け負う。


「いやいや、一員というか、俺はこれでも幹部なんだよ」


「その幹部様が、なんでバルバリア商会の仕事を受けてたんだ?」


「詳しくは言えないが、ある貴族様の依頼でバルバリア商会の内情を探るために潜り込んでいたのさ。まぁ、派閥争いってやつだな。バルバリア商会を後ろ盾とする貴族の力が強くなり過ぎて困っているから、何とか切り崩す方法が無いかと探っていたのさ。運良く、武に長けた者を集めていたから偽名で潜り込んだってわけさ」


「それにしては、ご機嫌に大暴れしてくれたじゃないか」


何故か得意げに話すグレンに冷や水を浴びせる。


「あれは、つい……。ハインセル傭兵団でもルック程の使い手はいないから、途中から楽しんでしまったんだ。悪かったな」


グレンは悪びれもなくルックの背中を叩いた。その一撃だけでも馬鹿力が伝わり、体勢が崩れかける。


「ちゃんと、ルックのお仲間には大ケガを負わせないように手心は加えたんだぜ。それより、この仕事が終わったら、ハインセル傭兵団に顔を出して、その貴族様と話してみないか?」


「バルバリア商会の対抗軸として、トールセン商会の名前を使いたいわけだな」


それは悪くない話だ。トールセンの名は残っているが、先立つ資金がない。貴族の援助があれば、一気に商会の規模を拡げられる。


「最初からそのつもりでこの仕事を受けたんだろ?」


見透かすように問うと、グレンは「その通り」と答えた。どうやらとことん素直な性格らしい。バルバリア商会の内偵というお役目にとっては人選ミスじゃないかと思うが、ここまで素直だと逆に疑われないのかもしれない。


すでに陽は落ち、松明の灯りを頼りに進んでいた一行の視界が急に広がり、森を抜けた先のリューベインの街の灯りがルックたちを照らし出した。


* * *


 しばらくして、ルックたちはハインセル傭兵団で貴族との謁見を済ませた。貴族は、自らを子爵と名乗り、ヤームシュタット公爵の使いだと言った。公爵は、ホルフィーナ王国建国に力を尽くした名家ヤームシュタット家の末裔で、相当に影響力のある人物だ。貴族はラフィナ商会への支援と、ハインセル傭兵団の助力を約束してくれた。


トールセン家はかつて王国建国を支えた豪商であり、当時のトールセン家の娘がヤームシュタット家に嫁いでいた縁で遠い親戚にあたる。ヤームシュタット公爵は、バルバリア商会がルックを抹殺しようとする前に彼を見つけ、保護しようと動いていたのだ。


「ラフィナ商会を支援してくださるのは有難いんですが、バルバリア商会を潰すことが私の目的であり、そのためなら相当汚い手も使うでしょう。それでも構いませんか?」


ルックの問いに、貴族は、バルバリア商会の力を削ぎ、いずれ我々陣営に資金を還元してくれるのであれば、好きにしてもらって構わないと言い放った。


グレンの話では、ヤームシュタット公爵側が推す第一王子と、対立陣営が推す第二王子の跡目争いで、第一王子陣営はかなり苦しい立場にだと言う。なりふり構っていられないのだろう。

 

当座の資金として金貨千枚と、ヤームシュタット領の名工ラザンが打った一振りの剣を拝領した。



 ハインセル傭兵団を離れた後、いくつかの街に支店を立ち上げ、各都市間を交易路で結んだ。トールセン商会が担っていた物流網は、バルバリア商会に取って代わられ、荷主に高額な輸送費を請求していた。その一部にラフィナ商会が介入することで、輸送費を下げ、バルバリア商会の収益に痛手を負わせつつ、物価の下落につなげ、王国民の生活を楽にすることができる。


当然、バルバリア商会の手の者が、交易路を行くラフィナ商会の商隊を襲撃したが、ハインセル傭兵団から派遣してもらっている護衛が軽々と返り討ちにしてくれた。


数か月経つと、噂を聞きつけた元トールセン商会の従業員たちがラフィナ商会に集まり、またエイドル・トールセンに鍛え上げられた護衛も駆け付けてくれた。交易路は少しずつ増え、さほど利益は上がらなかったが、バルバリア商会の収益を大きく損ねることに成功した。



 王都のラフィナ商会本店に、ルックとグレン、そして腕利きの護衛や傭兵が集まった。若干十七歳のルックが、この国有数の猛者たちの前に立ち、堂々と宣言する。


「これまでよくバルバリア商会の襲撃を抑え、戦ってくれた。次はこちらから仕掛ける番だ。バルバリア商会の交易路を徹底的に叩くぞ」


まずグレンが大声で叫び、猛者たちがそれに続いた。この数か月、襲撃に耐え、その間、バルバリア商会の物流網を徹底的に調べ上げ、どの交易路を潰せばより大きな痛手を負わせることができるか吟味していた。


その調査が完了し、最も痛手を負わせるであろう交易路を五つまで絞り、徹底的に叩き潰すため王都を出たルックたちは野盗に扮しバルバリア商会への襲撃を開始した。

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