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希望の道

 橋の建設が終わり、一年が過ぎた。

 『夜明けの道』は、今や大陸の経済と文化を繋ぐ大動脈として、その役目を果たしていた。

 そして、森と平原を繋ぐ『夜明けの橋』の上は、今日も様々な種族の喧騒と活気に満ち溢れている。

 南の平原からは、山と積まれた小麦や果物を運ぶ人間の荷馬車が。

 東の山脈からは、磨き上げられた鉄製品や美しい宝石を運ぶドワーフの蒸気車が。

 そして、森からは、エルフたちが育てた貴重な薬草や、木の実で作った酒を運ぶ、白い鹿の引く荷車が、ひっきりなしに行き交っている。


 その橋の中央、最も高いアーチの上で、二人の男女が、眼下に広がるその光景を、穏やかな表情で眺めていた。

「…ライラ。橋のたわみ具合、許容範囲内だ。俺の計算通り、あと三百年はびくともせん」

 相変わらずのいかつい顔つきだが、その目には深い自信を湛えたドワーフ、ゴリン・スティールシェイパーが、誇らしげに言った。

「あら、そうなの? でも、川の水の機嫌が、少しだけ悪いみたい。そろそろ、橋桁の掃除をした方がいいかもしれないわね」

 隣に立つエルフの女性、ライラ・メドウライトは、相も変わらぬクールな表情で、しかしその声には、隠しきれない優しさを滲ませて答えた。

 二人は、この橋の「守り人」として、今もここで、森と、道と、そして互いを見守り続けている。


 そんな二人の元へ、一人の女性が、軽やかな足取りで近づいてきた。

「ゴリンさん、ライラさん、お久しぶりです」

 宰相特使のリィナ・シルバーアッシュだった。

 その優しい笑顔は、以前と少しも変わらない。

「リィナ殿!よく来てくれた!」

「ええ、久しぶりね、リィナ。あなたが見届けたこの橋も、すっかり大陸の一部になったわ」

 三人は、しばし、思い出話に花を咲かせた。

 あの日の絶望的な戦いも、滑稽な入れ替わり騒動も、今では懐かしい笑い話だ。


「そういえば」

 リィナは、懐から一枚の葉書を取り出した。

「先日、王都の修道院にいるサイラスさんから、手紙が届いたんです。『私は、まだ森の声を聞くことはできません。ですが、時折、夢に見るのです。故郷の村で、家族と笑い合っている、温かい夢を』と」

 その言葉に、ゴリンとライラは、静かに顔を見合わせた。


 彼らが築き上げたのは、ただの石の道ではない。

 それは、忘れられた悲しみを癒し、異なる種族が互いを理解し、そして、未来へと続いていく、希望の道そのものだった。

 三人の笑い声が、完成した『夜明けの橋』の上を、どこまでも、どこまでも、響き渡っていった。

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