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恨むなら己の愚かさとうまい棒を恨むことね

 提示されたセリフを適切に配置して短い物語を作成しましょう。


「恨むなら己の愚かさとうまい棒を恨むことね」


 サーチライトが夜の闇を引き裂き、けたたましいサイレンが響き渡る。御木本財閥の会長、御木本 源三郎の私邸は高度なセキュリティを独自に備え、猫の子一匹入ることはない――しかしその神話は、一人の若き怪盗によって破られようとしていた。


「捜せ! まだ外には出ていないはずだ!」


 警備の指揮を執る一色警部の檄が飛ぶ。若干二十四歳の女性キャリアという肩書を持ちながら現場にこだわるその姿勢は味方も多いが敵も多い。彼女の直属の部下の機敏な動きとは対照的に、所轄の反応は鈍いものだった。


「……応援組に期待するのは無駄か」


 気持ちを切り替えるように息を吐き、一色警部は見通せぬ闇の向こうをにらむ。


「だが、こちらには切り札がある。今日がお前の最後の日だ、怪盗ヴェントゥス!」


 決意をはらんだつぶやきは、慌ただしい足音に紛れて消えた。




 建物の影に身を潜め、一人の青年が周囲を窺っていた。怪盗ヴェントゥス、自らをそう名乗るその青年は、懐にある『宝』に触れる。それは一人の少女の思い出の品であり、亡き父との絆だった。


「金持ちの道楽コレクションにゃ、ちっとばかしもったいねぇのよ」


 誰にともなくつぶやき、彼は時を待つ。信頼する彼の仲間が作ってくれる、時間を。


「……さん、に、いち」


 カウントダウンの終わりと共に、バチン、と音がして、屋敷の内外から一斉に灯りが消えた。周囲から混乱と怒声が伝わってくる。


「さっすがアクアちゃん、愛してるぅ」


 軽口と共に青年は建物の影から飛び出す。復旧までの想定時間はおよそ三十秒。自家発電に切り替えるまでのその時間が、彼に与えられた自由への猶予だ。逃走経路は頭に叩き込んである。外に出るまで約二十七秒。充分に可能な数字だ。可能な数字、だった。

 経路の脇に見慣れぬものがある。それはまるで大型の獣を閉じ込めるための罠に似て、暗闇の中でも奇妙な存在感を放っていた。そして、その箱罠の中心にあったのは――


「うわぁ、うまい棒だぁ」


 青年は思わず中に入り、うまい棒を手に取る。がしゃん、と冷酷な金属音が響き、入り口が閉ざされる。驚愕の表情で振り返った青年の姿を、無数のサーチライトが照らした。自家発電への切り替えが終わり、電源が復旧したのだ。


「ようやく捕まえたわ。怪盗ヴェントゥス!」


 駆けつけた一色警部が勝ち誇ったような声を上げる。箱罠が起動したことを感知し、こちらに向かっていたのだろう。青年は憎らしげに一色警部をにらむ。


「ずいぶんと悪辣なこと考えるじゃない、一色警部。少し前までワタワタするばかりであんなに可愛かったのに」


 一色警部はふん、と鼻を鳴らし、嘲笑うように告げた。


「恨むなら己の愚かさとうまい棒を恨むことね」


 しばし両者の視線が交錯する。だがすぐに、青年は視線を逸らし、観念したとでも言うように軽く両手を挙げた。


「参ったよ。降参だ。オレの負け」


 素直なその態度に拍子抜けし、一色警部は言葉に詰まる。青年は憐れを乞うように揺れる瞳で一色警部を見つめた。


「オレの最後のお願いだ、一色警部。あんたとの付き合いも結構長いだろう? せめて最後は、あんたに手錠を掛けてもらいたい。ダメかな?」


 青年に見つめられ、一色警部は動揺したように視線をさまよわせる。そして、「し、しかたないな」と言いながら腰の手錠を手に取り、箱罠へと近付いた。檻ごしに二人は向かい合う。青年はそっと両手を差し出した。一色警部が檻の扉を開け――


「――!?」


 青年は素早く一色警部に近付き、その唇を奪った。一色警部の身体が一瞬、硬直する。その一瞬のうちに青年は警部と身体の位置を入れ替えた。あまりにも自然なその動きに、周囲も何が起こったのか理解できなかったのだろう、動き始めるのが数秒遅れた。にっこりと笑って、青年は檻の扉を閉める。


「ドロボウの言葉を信じちゃダメだよ、一色警部」


 軽くウィンクして、青年は身を翻し、夜の闇に消える。ハッと我に返り、一色警部は叫んだ。


「お、追え! 奴を追え!!」


 部下たちが慌てて青年を追う。顔のほてりを夜闇で隠す一色警部は、小さな違和感に気付いた。口の中にカプセル状の何かがある。吐き出し、カプセルを割ると、そこには奇妙な模様が刻まれた紙片が入っている。じっと見つめ、不意に一色警部はスマートフォンを取り出し、模様をカメラに収めた。模様から読み取られた情報がダウンロードされる。さっと目を走らせ、


「……ふぅん」


 そうつぶやいて、一色警部はこの屋敷の主、御木本源三郎のいる私室を鋭く見据えた。




「……御木本が、逮捕されたって。よかったね、お父さん」


 遺影に向かって少女が語り掛ける。優しかった父。宝飾デザイナーとして誇りを持っていた父。その父が、自らの作品の中で唯一、他人に譲ろうとしなかったものがあった。それは彼女が十八歳になったときに贈るための、不器用な父親の精一杯の愛情を込めたブローチだった。だが、その噂を聞きつけたとある富豪が執拗に売却を迫り、ある日、父は『事故』に遭い、ブローチは行方不明になった。そしていつの間にか、ブローチはその富豪の――御木本源三郎の所有物となっていた。

 御木本財閥の会長逮捕の報は夜明けとともに一斉に報じられ、今までどれほど灰色でも黒にならなかった御木本をなぜ逮捕できたのか、様々な憶測が為された。彼の逮捕の決め手となった証拠を掴んだのは若き女性キャリアであったことが世間を騒がせ、一色という名のその警部は新たなヒロインとして話題をさらっている。


「でもね、お父さん」


 少女は目を伏せ、拳を強く握る。


「ブローチなんて、渡せばよかったんだよ。私、お父さんに、生きててほしかった――」


 少女の目からぽたり、ぽたりと涙がこぼれる。不意に玄関からチャイムの音が鳴った。


「あ、はーい」


 涙を拭い、少女は玄関に向かう。カタン、と音を立てて新聞受けに何かが入れられた。玄関扉を開ける。そこには、誰もいない。身を乗り出して左右を見ても、そこには誰の気配もなかった。


「……いたずら?」


 気味の悪さを感じ、玄関を閉める。ふと、新聞受けに目が留まった。そこには見覚えのない、手のひらに載るほどの小さな箱がある。丁寧に、きれいに包装された箱からは、誰かを大切に想う気持ちが宿っているようだった。


「これ……」


 包装紙に見覚えがあり、記憶を辿る。そう、これは、かつて父の店が使っていた――


「お母さん! これ!」


 そう叫び、少女は震える手で箱を包み、母の許へと向かった。


怪盗を逃がした失態は、会長を逮捕した功績で不問に付されました。

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