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領主

 魔族領の最奥にある魔王城。

 日も差し込まぬ闇夜の大地にそびえ立つ怪しげな城に魔族の長たる魔王が暮らしていた。


 ただ当の魔王サタンは機嫌が悪そうで腕を組み、無言の圧を放っていた。



「もう一度言ってみろ」

「はっ。彼の地に派遣しておりました魔族軍とその長である四天王たち、その全てが壊滅させられました」

「……勇者か聖女でも現れたのか?」

「確かに聖女が生まれた話はここまで届いております。しかし、まだまだ弱く我々の敵では――」

「それならば誰がやったというのだ!!」



 魔王が思いっきり拳を振り下ろすと側にあった王座が粉々に壊れてしまう。



「それが本当にわからないのですよ。アルムガルド王国との密約により、撤収の命を出してすぐ……ですから」

「……王国の罠か」

「それも考えましたが、それでも我が魔族にそれだけ壊滅的な被害を及ぼせる相手がいるとは到底思えないです」

「とにかくしばらくは力を蓄えるしかないな。もはやまともに戦える者は我と其方の二人だけだ」

「早急に兵を徴集して鍛えます」

「頼んだぞ」



 魔王の寝室での密約をひっそりと聞いている者がいた。

 魔王の一人息子であるヘルグリムは魔王の話を聞くとすぐさま自分の部屋へと向かい、旅支度を始めていた。



「グリム様、どこかへお出かけですか?」

「楽しそうなことがあってな。ちょっと隣の王国(ちかく)に遊びに行ってくるぞ」

「なるほど。城下町(ちかく)に遊びに行かれるのですね。あまり遅いお帰りにならないように気を付けてください」

「はははっ、むしろ悪たるもの、遅れて帰ってくるほうが普通であろう」

「……まったく、どこでそのような知識を身に着けてくるのやら。いいですか、グリム様。それは古い考えの悪というものになります。今の悪はもっとスタイリッシュかつエレガントに……」

「じゃあ行ってくるぞ、セバス」

「ま、待ってください。まだお話は……」



 ヘルグリムはセバスの話を無視して、そのまま大荷物を背負って走り去っていくのだった。




 ◇◆◇◆◇◆




 押し付けられるように領地を任された俺は、他に領地をもらうことになったカイエンと共にリンガイア国王の執務室に呼ばれていた。



「わざわざ呼び出してすまんな。色々と細かいことを決めておきたくてな」



 リンガイア国王の前には地図が置かれていた。

 そして、そこにはざっくりとだが新しく増えた領地がまるで囲われていた。



「此度の領地はテオドール殿に半分を渡し、残りの半分を私とカイエンで分ける形となる。そこでどう分けるか、という話をしたかったんだ」



 なるほど。確かにざっくり分けるという話しかしていなかった。

 ただ、どこか希望がある、というわけでもない。


 むしろもっと減らしてくれてもいいのだが――。


 ただ外敵から身を守るためにもそれなりに信用のおける人物に国境を任せたいというのはよくわかる。

 一応先の侵攻を解決した立役者として……。



 ならば俺が守るところはおそらくは魔族領側の南か?



 ある程度あたりをつけながら話を聞いていると……。



「テオドール殿には王国の北側を守ってほしいのだがどうだ?」

「北……? 魔族側じゃなくていいのか?」



 北というとアルムガルド王国側である。

 北東にアルマガルド王国、北にはラフィス大森林、西には隠されているのだが、世界樹があり、エルフが住む隠れ里があった。

 しかもエルフの隠れ里は物語と関係なく原作開始時には滅んでいる。


 原作では世界樹を狙う強大なはぐれ魔族によって滅ぼされ、原作ではほとんどエルフ種を見なかった。

 世界樹から力を得たボスを倒すサブイベントはあるものの、あまり報酬は良くないし、聖女の力がないととてもクリアできないのでいったん忘れておくことにする。



 一応属国であることを考えるとラフィス大森林くらいしか危険はないうえに、そちらも外の世界とは交流を断っており、魔族侵攻のきっかけで聖女に救援を求める、という流れになるくらいだった。


 つまり当面の危険は魔族側の南にしかないと思われるのだが――。



「おそらくはそちらの方が今は危険だろうと思ってな。まだ詳しい情報は得ていないから念のためだ」

「わかった。ではそちらの領地をもらおう」

「あと、家名だがそのまま(・・・・)の名は使えないのであろう? そうだな……ガルド伯爵、というのはどうだろうか? まったく違うのも抵抗があるかと思うからな」

「まぁ、俺はなんでもいいのだけどな」



 そもそも国は捨てた身である。

 家名にそこまでこだわりはない、というより貴族になる気もなかった。



「では、そなたは今日よりテオドール・ガルド伯爵だ。国のために頑張ってくれとは言わんからできることをやってくれ」



 一応そこでは気を使ってくれているので俺としてもありがたい。



「あとはほどほどにリフィルとも仲良くしてやってくれ。婚約者として」

「あぁ……。って、違うだろ!?」

「しかしそなたも言ったであろう? リフィルの意思を尊重する、と。リフィルはどうだ?」

「わ、私はその……、テオドール様とご一緒できるならうれしいです……」

「ということだ」

「くっ……」



 確かにリフィルの意思を聞いてから、といったのは俺であった。

 でも、どこにそんな惹かれる要素があったのだろうか?


 ……いや、そもそも悪役落ちする場面で助けに入ったからか。


 吊り橋効果でしかないと思うのだが。



「わかった。婚約という形ならいい。ただ嫌になったらすぐに解消してくれていいからな」

「嫌になることなんてありませんよ」



 リフィルが笑みを浮かべるとその可愛さに思わず俺もドキッとするのだった。



「ところでしばらくの間はこの城の部屋を使ってくれていいからな。必要になるだろう?」

「……どういうことだ?」



 普通領主に任命されたものは自分の領地にメインの住居を構え、王都と行き来の生活を送る。

 俺自身ももちろんそうするつもりだったのだが――。



「何もないところだからな。館を立てるにしても時間がかかるであろう?」

「あっ……、なるほど」



 今回俺がもらった場所は普通の場所じゃなかったことに今更気づく。

 つい先ほどまで戦地になっていたような何もない荒地である。


 住むところもなければ、本当になにもない。


 自由にできるが、何から手を付けていいかもわからないようなところだった。



「とりあえずまずは土地の確認をさせてもらうか。どういう領地にしていくかも踏まえてな」

「ご一緒します」



 俺とリフィルは早速ガルド領へと向かうのだった。




 ◇◇◇◇◇◇




 戦場として踏み荒らされていたからか、土は固くろくに草木が生えていない平野。

 結界がなければどこが境界かもわかりにくい森林。


 遠くの方には川が流れているもののそこは結界外である。


 本当に何もない場所ということがわかり、俺は思わず愕然としていた。




「これだけの広さがあればなんでもできそうですね」

「さ、さすがに広すぎるな。どこから手を付けていけばいいんだ……」

「えっと、お父様に一応農家の方で移住したい人がいたら連れて行っていい、という話はもらっていますが」

「そもそも来てもらうための家がないからな」



 せめて俺が土魔法とか使えたら一気に家を作り上げたりするのだが……。



「リフィルは魔法とか使えたりしないか?」

「風魔法と聖魔法を少しだけなら……」



 やはりここでうまくいくわけがなかった。

 いや、どうだろうか? 風魔法なら俺の支援魔法と組み合わせると有効活用できるかもしれない。



「あの森林に向かって風初級魔法(ウイングカッター)を放ってくれるか?」

「えっ? でも私の魔法はそれほど威力がなくて、あの木も少し傷つけるくらいしかできないと思いますけど……」

「物は試しだからな。リフィルがどのくらいの魔法を使えるのか、今のうちに見ておきたい」



 単純に能力を見るだけなら『鑑定』をしたらいいだけである。

 当然ながらすでに鑑定は行っているし、リフィルが持っている属性も把握はしている。



【名前】

 リフィル・リンガイア

【年齢】

 12

【性別】

 女

【能力】

 レベル:3

 HP:21/21

 MP:6/6

 力:3

 守:2

 速:6

 魔:6

【スキル】

『風魔法:1』『聖魔法:1』

【追加効果】

『魔力強化:4』『魔力消費減:4』『魔法範囲拡大:4』『魔力自動回復:4』



 さすがにまだまだ子供であるリフィルにこれ以上の能力を求めるのも酷というものである。

 それにほとんど使えるものがいないとされる『聖魔法』を使えるのは大きい。


 生まれた地が王国だったならリフィルが聖女に任命されていてもおかしくないほどである。

 一応俺が今使える魔力系のバフをこっそりリフィルにかけておく。


 ここまでしておけば木くらいは切ることができるだろう。



「わ、わかりました。で、できるだけ魔力を込めて……風初級魔法(ウイングカッター)!!」



 リフィルが両手を前に突き出して呪文名を唱えると、次の瞬間に目には見えにくい鋭い風の刃が現れ、そのまま森林の方へと飛んで行った。

 ……まではよかったのだが、そのまま一直線に木々をなぎ倒していった。



「えっ?」

「結構強化されるんだな」

「あ、あの……、どういうことですか?」

「一応支援魔法を使ってみただけだな」



 強くなることはわかっていたが、想像以上に強化されていた。

 いや、強い魔物を倒すためにはこのくらいのバフが必要なのかもしれない。



「テオドール様が規格外なのはわかりました。ですが、この木はどうやって運びますか?」

「そうだな。『軽量化』の付与を与えてみるか」



 一応持てる最大の威力で付与をするとほとんど重さを感じずに片手で持てるほどの重さに早変わりしていた。



「これなら俺でも運べそうだな」

「……もう何も言いませんよ」



 俺が二つの丸太を運んでいるとリフィルは乾いた笑みを浮かべていた。




 ◇◆◇◆◇◆




 エルフの隠れ里近く、世界樹に釣られて魔族がさまよい歩いていた。



「この辺りから世界樹の魔力を感じるな。おそらくはエルフたちが結界で位置を特定できないようにしているな」



 その考えが正しかったことを示すように見た目はずっと森が続いているのだが、空間が歪んでいるように見えた。

 ただそれもこの魔族の感覚が鋭いからわかったことで、他の人物だととても気づかなかっただろう。



「くっくっくっ、いよいよ俺の手に世界樹が……。そうなると魔王すらも超えうる力を手にすることができるはずだ」



 すでに力を入れたあとのことを考えている魔族。

 そのせいか、遠くから飛んでくる魔力の反応が遅れてしまう。



「っ!? な、なんだ!?」



 木々をなぎ倒して迫ってくる謎の魔力。

 すぐ間近に迫ったタイミングで気づいたために対応が遅れてしまう。



「ぐ、ぐおぉぉぉぉ。目の前にエルフの隠れ里(たから)があって、ここでやられてたまるかぁぁぁぁ!!」



 全魔力を放出して対応するが、飛んできた謎の魔力はそれ以上の力を持っており、瞬く間に魔族の体は分断されていた。

 そして、謎の魔力はそのままエルフの隠れ里を隠す結界に衝突し、激しい音を鳴らしながらどちらも消滅する、という結果を引き起こしていた。



「この力は……、支援魔法か?」



 結界の中から姿を見せたエルフの青年。

 彼はポツリつぶやいた後、なくなった結界の跡を眺めているのだった。


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