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第5章 ユリウスの自覚(その2)

ギルバートから頼まれていた土壌の解析は、概ね上手く進んでいた。

ルフェルニアの考えたとおり、土壌中の成分が植物の生育を邪魔していたのだ。


今は植物局の職員が、その成分に耐性のある薬草を創り出すことができるか、ギルバートも交え、意見交換を行っているところで、ルフェルニアも度々その打合せには同席させてもらっていた。


日常に少しの寂しさと違和感を覚えながら、ルフェルニアはつい、婚活ではなく仕事にのめり込んでいくのを自覚していた。

婚活のことを考えると、自然とユリウスのことを考えてしまうのだ。


ユリウスとは仕事のついでに会えば会話をするが、ぎこちないやり取りが続いている。

それに、偶に職場の食堂などで強い視線を感じると思うと、そこには必ずユリウスがいたが、ユリウスはルフェルニアに話しかけることもなく、ただじっと見つめてくるだけなので、ルフェルニアはその対応にも苦慮していた。


(これじゃあ、おひとり様コースまっしぐらね。)


件の打合せが終わり、ルフェルニアが重たげにため息を吐くと、隣に座っていたギルバートがルフェルニアの顔を覗き込んだ。


「随分なため息だな。疲れがたまっているのか?」

「ちょっとね、色々あって。」

「そろそろ王宮の夜会が近い。その顔を何とかしないと、マーサが悲しむぞ。」

「失礼な、もともとこんな顔です!」


ルフェルニアが思わず口を尖らせて拗ねてみせると、ギルバートはルフェルニアの表情が変わったことを安心したように笑った。


(何その笑顔!!)


ルフェルニアは思わず気恥ずかしくなって急いで顔を背けた。

ギルバートは意地悪気に口の片端だけを上げて笑うことが多かったが、最近、優しく目元を緩めることが多いのだ。

最初こそ、ルフェルニアの方が可愛い!可愛い!とギルバートを照れさせていたが、最近は立場が逆転しているような気さえする。


「まぁ、夜会なんて、取り敢えず顔を出せばいいだけさ。」

「そうはいっても、ギルは来賓なんだから…。私は今から気が重いわ。」

「ちゃんと根回しは済ませてあると言ったじゃないか。」

「うん、ありがとう…。」


(社会的な根回しだけではなくて、女性の目線とか、ね…。)


ギルバートは全く分かっていなそうだと、ルフェルニアは再び重たくため息を吐いた。


_____


ついに王宮の夜会の日、ルフェルニアはマダム・ロッソがいるブティックに訪れていた。

あれよあれよという間に着替えさせられ、鏡の前に立たされると、そこには全く見慣れないルフェルニアの姿が映っていた。


(これが私?というのは物語の中の話だと思っていたけれど…本当に自分にそう思う時が来るなんて。)


いつもはアップスタイルにしている髪も、サイドに緩く巻いて降ろしたスタイルになっており、ドレスも相まって、いつもより大人っぽい雰囲気だ。

いつもはどちらかというと優しげな雰囲気になるように仕上げられていたが、もともと平凡な顔つきなので、いつもより少し濃いメイクが良く映えていた。


「いつもと随分雰囲気が違うな。」


ブティックまで迎えに来てくれたギルバートは開口一番そう言った。

そして、当然のように横にいたマーサに肘でつつかれている。


「…似合っているな。」

「ありがとう。」


渋々、といった様子で社交辞令を口にしたギルバートにルフェルニアは苦笑しながら答えた。


「さて、今日はさっさと煩わしい挨拶を済ませてしまおう。」

「そうね、さっさとスイーツだけ回収して帰りたいわ。」


ルフェルニアとギルバートは顔を見合わせて笑う。

ルフェルニアは差し出されたギルバートの腕を取ると、さながら戦場に向かうような気分で足を踏み出した。

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