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馬車の前に着くと、護衛の他に侍女らしき背の高い女性がひとり、外で待っていた。

ルフェルニアの母トルメアと同じくらいの年齢だ。


「ヘンリー様は御一緒じゃないの?」


何とか平然を取り戻したルフェルニアは、不思議そうに聞いた。


「ヘンリーは王都に残ってやってもらうことがあるから置いてきた。

マーサ、こちらはルフェルニア・シラー嬢だ。」


「ルフェルニア様、どうぞよろしくお願いいたします。マーサでございます。」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


ルフェルニアは、侍女のマーサが優し気に微笑んでから頭を下げたのを見て、道中の話し相手がギルバート以外にもいたことを喜んだ。


いざ馬車に乗り込むことになったが、ギルバートの馬車は近くで見るとますます大きかった。

ギルバートが手を差し出してくれたが、ルフェルニアが乗り慣れている馬車よりも随分ステップが高く、ルフェルニアは1歩目を踏み外してしまった。ステップにかすりもしなかったのでよろめきはしなかったが、カツン、とその場で足を鳴らしたような形になる。


「くくくく。」


ギルバートは我慢できなかったのか、俯きがちに肩を震わせながら笑っている。


「しょうがないじゃない、いつもよりステップが高かったんだもの!」


ルフェルニアが恥ずかしさで顔を赤らめながら抗議すると、ギルバートはルフェルニアに貸していた手を離し、ルフェルニアの後ろに回る。

ギルバートは、ルフェルニアが振り向く間もなく、ルフェルニアの両脇に手を差し入れて、子供にするかのようにルフェルニアの体をひょいと持ち上げた。


ルフェルニアは、何が起きたか分からず絶句したが、後ろから「頭を少し下げないとぶつかるぞ」と声をかけられ、咄嗟に頭を下げる。


気づくとルフェルニアは馬車の中に納まっていた。


(…え?…え、え~~~~~~~~~!!!!)


一瞬遅れてルフェルニアは大いに動揺した。

馬車の入口で座りもせず、頭を下げた中腰のまま立ち尽くす。


「ルフェ、はやく座ってくれないか。後ろがつかえている。」


ギルバートが何てこともないように言いながら背中を押してくるので、ルフェルニアは思考がまとまらないまま取り敢えず席に着いた。

そして席に着いて少し落ち着くと、ルフェルニアは目の前に座ったギルバートに抗議の声をあげようと目線をあげた。しかし、ルフェルニアが何かを言うよりもはやく、最後に乗車したマーサが扉を締めながら口を開いた。


「坊ちゃん。」

「もう坊ちゃんではない。」

「いいえ。そのお年にもなって、女性の扱いのなっていない貴方はまだ坊ちゃんです。」


ルフェルニアは先ほどまでの動揺を忘れて目を丸くした

マーサはギルバートの幼いころからの侍女なのかもしれない。


「困っていたから手を貸してやっただけだろう。」


ギルバートは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「女性の体を突然持ち上げるだなんて、大変無礼なことです。そもそも、この馬車は早々に買い替えるべきだと以前も申し上げたではないですか!それかステップだけでも付け替えるべきです。」


マーサは窘めるようにそう言うと、隣に座っているルフェルニアの方を向いて眉を下げた。


「御無礼があって申し訳ございません。この馬車は坊ちゃんが御自身のために注文されたものですから、ステップの高さも坊ちゃんに合わせてあるのです。」


ルフェルニアは何か一言文句を言ってやろう、と思っていたが、ギルバートからすれば全くの善意の行為だったようだし、マーサに怒られて子どものように拗ねているところを見ると、これ以上は何も言えなくなってしまった。


「いいえ。びっくりはしましたが、助けていただいたわけですし…、ありがとう。」


「ほら見ろ。ルフェは嫌がっていないだろう?」


ルフェルニアは、マーサに言われたことを全く気にもしていないギルバートの得意げな顔を見て、少しばかりため息をつきたくなってしまう。


「ルフェルニア様はお優しいからです、次回からはお気を付けください。」


マーサがぴしゃり、と言い放つとギルバートはまたそっぽを向いてしまったので、ルフェルニアはこの方のどこが”恐ろしい方”なのか心底不思議に思った。

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