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レストランで食事をしながら、シラー家の状況をひととおり聞いたところで、ルフェルニアは、ユリウスと面識のあるアルウィンにも先週の件を話しておこうと口を開いた。
「私ね、先週ユリウス様に告白してフラれたの。」
アルウィンは水の入ったグラスを口元に運んでいたその格好で一時停止した。
「え…?ユリウス様が…え…?お姉様を…フる…?」
本当に信じられないことが起きたようにするアルウィンに、ルフェルニアは思わず笑ってしまう。
「そうよ。だから今、ユリウス様とは普通の上司と部下の関係になれるよう、少し距離を置いているの。前みたいにアルウィンにも会わせてあげることができなくなるから、言っておこうと思って。」
「そんな…。あの人は絶対お姉様のことが好きでしょう…?」
「私もそんな淡い期待を抱いたこともあったけど、勘違いだったわ。
そもそも、ユリウス様と私じゃ、すべてのことにおいて釣り合わないもの。」
未だ信じられないようにしていたアルウィンだが、少しの間俯くと、ツリ目がちの目をさらに吊り上げさせてルフェルニアを見た。
「ええ、ええ。わかりました。もう良いです。ユリウス様のことは忘れましょう。僕がお姉様に見合う、ユリウス様以上に素敵な方を探すから安心して?」
「ユリウス様のことは忘れるつもりだけれど…、ユリウス様より素敵な方なんているのかしら?」
「お姉様、忘れる気、あるの?」
アルウィンが胡乱な目で見てくるので、ルフェルニアは慌てて言い訳をする。
「ユリウス様が国一番の美貌だ、という話は社交界でも有名な話でしょう?
それに次期公爵様だし...総合的に言って?一般論?みたいな感じで?
それに、アルウィン、貴方はまず自分の婚約者を探すべきだわ。私は私の方で何とかするから。」
「僕はお姉様が婚約するまで、婚約しないって言っているでしょう。
お姉様は騙されやすそうだから、絶対自分だけで決めちゃだめだからね。」
ぴしゃり、とアルウィンが言い放つと、ルフェルニアは「私ってそんなに信用がないのかしら。」と少し口を尖らせた。
「お姉様、僕はお姉様に幸せになってほしいんだ。」
アルウィンが優しくフォローを入れると、ルフェルニアは僅かに頷く。
「お姉様、ほら、デザートが来たよ。僕の分も好きなだけ食べていいからね。」
(私の方が年上なのに、デザートで機嫌を取ろうなんて、アルウィンったら私を何歳だと思っているのかしら?)
ルフェルニアはちょっと拗ねたふりをしながら、まずは自分のデザートであるミルフィーユにナイフを入れる。
「とっても美味しい!カスタードクリームがとても濃厚で、サクサクのパイにとってもよく合っているわ!」
ルフェルニアは満面の笑みで言った後、アルウィンはおかしそうに笑ったのを見て、赤面した。
デザートで簡単に機嫌が取れてしまうのは、そうすぐには変えられないらしい。
「やっぱりお姉様はそうでないと。」
そう言ってアルウィンは自分のお皿をルフェルニアの方に寄こそうとする。
アルウィンが選んだのはカスタードとイチゴのクレープだ。
ルフェルニアはアルウィンがとりわけベリー系のフルーツが入ったデザートが好きなことをよく知っていた。
「私、今日はもうおなかいっぱいでデザートはひとつしか入りそうにないわ。」
(本当は甘いものならいくらでも入るけどね。)
「そう...?じゃあ僕が食べちゃうね。」
アルウィンは不思議そうな顔をしながらデザートのお皿を手元に戻すと、クレープを口に運んだ。
(やっぱり、デザートを食べるアルはとっても可愛い!!)
ほかの人にはきっとわからない、わずかな変化だが、アルウィンの瞳が嬉しそうに輝くのを見て、ルフェルニアは満足そうに頷いた。
「お姉様、どうしたの?」
「ううん、デザートが美味しいなって。」
アルウィンが不思議そうにするので、ルフェルニアがにまにまとした顔を隠せずにそう返すと、アルウィンはあきれたように笑った。




