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第3章 外国出張

ルフェルニアは、ユリウスと“普通の上司と部下”になるという意志の下、週初めの呼び出し以降、ユリウスとの遭遇を可能な限り控えていた。


同じ職場内に居るといっても、ユリウスは多忙のため、ルフェルニアが避けるように行動すれば、たやすく会う頻度は減った。


以前は、ユリウスに時間が取れれば、度々ランチも一緒に取っていたが、それも止めた。

先日偶々顔を合わせたユリウスのフットマン、ギュンターからランチを一緒にとらないかと声をかけられたが、やんわりとお断りをしている。


(ユリウス様はギュンターに事の経緯を伝えていなかったのかしら?)


(明日から、ようやく週末ね。今週はユリウス様の綺麗なお顔をあまり見ることができなかったから、癒しが足りなくて、余計に疲れがたまっている気がするわ…。)


ルフェルニアは来週からの出張の資料準備ですっかり帰りが遅くなってしまった。

同じ居室には誰一人、残っていない。


(そういえば、今週末の予定の確認をユリウス様にしていなかったわ。)


ルフェルニアはそこまで考えたところでふと我に返った。

先週は告白のバタバタで有耶無耶になってしまったが、ルフェルニアとユリウスは、都合の合う週末は決まって一緒に過ごしていた。

しかし、これもおかしなことだ。


(習慣って怖いわ...。明後日は出発の前にアルが会いに来てくれる予定だし、明日は週明けの出張に向けて荷物のパッキングとお土産の準備をしなくっちゃ。)


ルフェルニアが荷物を片付けて席を立とうとしたところで、誰かが居室に入ってきた気配がした。


「ルフェ、お疲れ様。来週からの出張の準備は大丈夫?」

「お疲れ様でございます、ユリウス様。出張の資料準備などは恙なく終わっております。」


入ってきたのはユリウスだった。夜ですっかりくたびれてしまっているルフェルニアと違い、ユリウスは夜遅くても全く崩れた様子もなく美しいままだ。


「そっか。ひとりの外国出張は初めてだろう?やっぱり都合をつけて僕も一緒に…」

「ユリウス様!今回はテーセウス王国と協議をするのではなく、あちらの学園で生徒向けに短期間の講義をするだけです。

テーセウス王国で要人にお会いする予定もありませんので、先方に国家レベルの粗相を起こしてくるようなことはございません!!」


(ユリウス様の中で、私はまだ小さい頃の奔放な私のままなの!?)


ルフェルニアがテーセウス王国で何かをしでかすことをユリウスは心配しているのだと思い、ルフェルニアは眉尻を上げて不服そうな表情を見せた。


「違うよ。ルフェのことは信用しているさ。でも、テーセウス王国までは馬車で片道3日もかかるだろう?いくら軍事大国の先方が馬車も護衛もつけてくれるとは言っても、不安なんだ。それに、2週間も、君に会うことができない。」


ユリウスが本当に心配そうに、そして寂しそうに言うので、ルフェルニアの整理のついたはずの心がうっかりときめいてしまう。


(ユリウス様のこれって無意識なのかしら…、恐ろしいわ...。)


「そういえば、ルフェの今週末の予定は?出張に向けて買い物があるなら、付き合うよ。」


さすがに出張への同行は諦めたのか、ユリウスは肩を竦めてから、ルフェルニアの週末の予定を確認しようと口を開いた。


「...ユリウス様、先日申し上げたとおり私たちは“普通の上司と部下”に戻るべきです。“普通の上司と部下”は毎週末の予定を合わせることはございません。」

「先日も言ったと思うけど、どうして今までの関係じゃだめなの?」


ルフェルニアが平然を取り戻して答えると、ユリウスは少し不服そうにした。


「私もユリウス様も結婚適齢期です。婚約者を急ぎ見つけなければなりません。」

「ルフェに婚約者!?」

「なんでそんなに驚くのですか!私にはできなくて当然と仰いたいのですか!?」


ユリウスが驚いたように言うので、今までどこからも縁談の申し入れのなかったルフェルニアは卑屈な気持ちになってしまう。


「ちがうよ、そうじゃなくて…。想像したこともなかったから…。」

「そうですか。とりあえず、今週末もこれ以降も、週末をユリウス様と過ごすことはありません!それではお疲れ様でございました!」


ルフェルニアは足早に居室を後にしようとするが、ユリウスが慌てて追いかけてくる。

足のコンパスが違いすぎる。ルフェルニアはあっという間に距離を詰められてしまった。

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