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あれからルフェルニアは、両親にユリウスからドレスを贈ってもらうことになったことを伝えたり、サムエルのエスコートを断ったり、王宮の夜会に向けて準備を進めていた。
来たる当日、ルフェルニアは王都のミネルウァ邸で身支度をしてもらうことになっていた。
ユリウスは直前まで仕事があるようで、学園に迎えに来てくれた馬車にひとりで乗り込む。
ルフェルニアがひとりで王都のミネルウァ邸を訪ねるのは初めてだ。
(血縁者でも婚約者でもない小娘が、ひとりで行って相手にされないんじゃないかしら…。)
ルフェルニアのこんな懸念は到着してすぐに払しょくされた。
ミネルウァ邸の使用人はルフェルニアを仰々しく迎え入れると、髪の毛から手足の先まですべてを丁寧にケアしてくれたのだ。
しかも、侍女はルフェルニアの手入れをしながら口々にルフェルニアを褒めるので、「公爵家はさすが、使用人のレベルが違って、リップサービスまですごい」とルフェルニアは感心してしまった。
「とってもお綺麗です、ルフェルニア様」
全ての準備が終わったころ、日の高いうちから準備を始めたのに、すっかり日が落ちていた。
新しく作ったドレスは青空のように明るい青色で、裾にかけて美しくグラデーションがかかっている。裾にはキラキラとした宝石が無数に散りばめられているが、これはルフェルニアがいた当初には話に挙がっていなかったものだ。きっとユリウスが追加したに違いない。値段を想像してはいけない、とルフェルニアは輝く裾からそっと目を逸らした。
準備が終わって間もなく、仕事を終えたユリウスが部屋に入ってきた。
やはり、というべきか、授賞式のときとは異なる黒い礼服を身に纏っている。髪飾りもいつものままだ。
ユリウスは今日も輝かんばかりの美しさを放っていた。
「ルフェ、とっても綺麗だね。やっぱり君には青色が似合うよ。」
「素敵なドレスを贈ってくれてありがとう。それに今日の準備も、皆さんに大変よくしてもらいました。ユリウスはいつも綺麗だけれど、今日は一等美しいわね。」
「ありがとう、君に褒められるのが一番うれしいよ。」
ユリウスが嬉しそうにはにかむので、ルフェルニアはその可愛さと美しさに眩暈を感じるほどだった。
「あとはこれを着けたら完成だ」
そう言ってユリウスはルフェルニアの後ろに回ると、大ぶりのダイヤモンドが付いたネックレスとイヤリングをルフェルニアに着けた。
ルフェルニアを鏡の方に向かせると、想像どおりだったのか、ユリウスは満足そうに頷く。
「本当は、ブルーダイヤモンドを用意したかったのだけれど、母上に重すぎるから止めとけって、止められちゃったんだ。でも、今日のドレスの青を映えさせるためには、これで良かったかな。」
(アンナ様…!ユリウスの暴走を止めてくださってありがとうございます…!)
ルフェルニアはアンナに心の中でお礼を言ったが、今つけているダイヤモンドも相当な代物に違いない。
(このアクセサリーだけは、アンナ様に言って、なんとか返却できないか後で相談しよう…。それにイヤリングは絶対に落とさないようにしないと…!)
ルフェルニアはパーティーへの不安とは別の緊張にごくりと唾を飲み込んだ。
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会場に着くと、その人の多さにルフェルニアは驚いた。
地方から、成人を迎えたほぼ全ての貴族が集まっていると言っても過言ではない。
ルフェルニアの両親とユリウスの両親とは入場前に合流する約束になっていたが、無事合流できたのは奇跡といって良い。
「ミネルウァ公爵サイラス様、公爵夫人アンナ様、公爵令息ユリウス様及びシラー子爵オットマー様、子爵夫人トルメア様、子爵令嬢ルフェルニア様」
入場の担当の者に声高らかに紹介されると、会場内の人が一気に入口を振り向いた。
きっと、ただでさえ注目されているミネルウァ公爵家が、他家を伴って入場したため尚更人の注目を集めたのだろう。
ルフェルニアが思わず怖気づいて後ろに下がりそうになったとき、ユリウスはルフェルニアの耳元で囁いた。
「ルフェ、大丈夫。今日は僕がずっと一緒に居るからね。」
ユリウスは差し出していた腕をさらにぎゅっと締めるので、ルフェルニアとユリウスの体はより密着する。少し離れようにも、手が簡単には引き抜けない強さだ。
(恥ずかしい~~~!!それに想像以上に視線が突き刺さる~~~!!)
ルフェルニアは顔を真っ赤にして緊張で固くなる足を何とか前に踏み出した。




