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ルフェルニアはユリウスとデザイナーに言われるがままにひたすらドレスの試着を繰り返して、すっかり疲れ切っていた。
ユリウスが、何を着ても「いいね」「可愛いね」というので、なかなか1つに絞ることができなかったのだ。
「これを機に何着か作ればいいじゃないか。」
「デビュタントは1度きりで、私の体も1つです。それに寮にはしまっておくスペースもないもの。」
「この邸宅においておけばいいさ。また次の社交もあるかもしれないだろう?」
「…じゃあ、そのときはそのときに考える。」
「まぁ、デザインの流行り廃りも速いし、王宮の夜会で今シーズンの王都の社交は最後だからな…。それなら、次の機会はちゃんとルフェから僕に、誰よりも先に声をかけてよね。」
ルフェルニアはとりあえず今、1着の製作で済むことを考えていたが、安易に次の約束もしたくない。先日の二の舞になって言質を取られるに違いない。
ルフェルニアは曖昧に笑って誤魔化そうとしたが、当然ユリウスはそれを許さない。
「今は1着にするから、次をちゃんと約束して?そうじゃないなら、今僕が気に入ったのはすべて作ることにするよ。」
ユリウスは先ほど何回「いいね」を言っただろうか。ルフェルニアはそれを考えて、青ざめる。
「わかったわ。もしも次に”王都で”出るときは声をかけるわ。」
「”王都で”でなくてもだよ、ルフェ。」
「…わかったわ。」
こうしてルフェルニアはその場しのぎで次の約束してしまったが、これが大人になっても続くことになるとは、このときは知る由もなかった。
さて、凡その形は1着に決まったものの、これから色を選ばなければならない。
ここでまたひと悶着があった。
「授賞式のときは白がベースだったから、今度は青色をメインにしようか。」
「次は全く違った色のドレスが着てみたいわ!」
ルフェルニアはユリウスの提案を慌てて否定した。
王宮のパーティーでユリウスの色を纏って、ユリウスにエスコートなんてされたら、きっと針の筵になる。
「確かに、色が偏っちゃうのはつまらないかもしれないけど…、デビュタントは一番好きな色が良いでしょう?」
ユリウスは、ルフェルニアが青色を好きなのを確信しているような口ぶりだ。
(確かに!ユリウスの瞳の色は大好きだけれども!)
「次は暖色が良いかな~って…。」
「ふ~ん。」
ユリウスが面白くなさそうに相槌をうつと「じゃあ、何色が良いの?」と聞くので、ルフェルニアは咄嗟に近くにあった布地を手にした。
少し光沢のある薄い黄色の生地に、細い金色の糸で見事な刺繍が入れられている。幾何学的な模様というか、エキゾチックな雰囲気だ。
咄嗟に手に取ったものだったが、その刺繡の美しさにルフェルニアは思わず目が釘付けになった。
「まぁ、シラー子爵令嬢はお目が高いですわ!そちらは最近遠い東方の国から輸入したもので、生地の柔らかさも素晴らしいのですが、なによりその国独自の柄を取り入れた刺繍がとても美しく、他では取り扱っておりません。大勢集まる今度のパーティーでも他と被ることはないでしょう。」
「そうなんですね!では、これで…、」
「それはダメ。」
デザイナーの方もお勧めしてくれたし、とルフェルニアが決めようとしたところ、ユリウスがルフェルニアの手からその布地を取って、元の場所に戻した。
「どうして…?」
「ルフェのデビュタントだし、ルフェが着たいものを用意してあげたいって思っているよ?…でも、黄色は嫌だ。」
「黄色も可愛いじゃない、何がいけないの?」
「黄色のドレスでもルフェは絶対可愛いさ。…でも、リリーから、君がサムエルの髪と瞳を、日に照らされた小麦の穂みたいに綺麗だって、褒めていたと聞いた。」
確かに、ルフェルニアには、サムエルの瞳が黄金の太陽に、ちょっと逆立った髪の毛が、美しく輝く小麦の穂のように見えていた。
ただ、一言一句違わずリリーに報告させているのか、とルフェルニアは思わず引いてしまう。
「別にサムエル以外にも同じ色の方はいるわよ。」
「…それでも嫌だ。やっぱり青にして。」
「ね、お願い。」とユリウスはルフェルニアを見つめるので、ルフェルニアは虚無顔になる。
今日の短い間だけでも、既に何回かこの顔を見ている気がしてならない。
ユリウスはルフェルニアをいつも甘やかすが、結局最後はユリウスの掌で転がされているような気分になるのだ。
(でも、やっぱりお願いをするユリウスは可愛い…。)
「…うん、わかった。じゃあユリウスが選んで。」
ルフェルニアは内心、ため息をつきながら答えた。
ユリウスの色は好きだから嬉しい、でも、パーティーの日のことを思うと憂鬱になった。
ただ、ルフェルニアはユリウスの嬉しそうに笑う顔を見たら、すべて「まぁ、いいか」と思えてしまうのだ。




