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ルフェルニアはミネルウァ邸に到着するまでの感情ジェットコースターで疲労困憊になっていた。
まさか、この先にさらに更なる試練があるとは思ってもみなかった。
「さぁ、ルフェ。ドレスのデザインを決めようね。折角のデビュタントだからフルオーダーにしよう。」
ルフェルニアが案内された部屋に入ると、所狭しとドレスとレースやリボンが並べられていた。侍女とデザイナーらしき人もずらりと並んでいる。
「ちょっと、私のドレスはお母様が用意するって言ったじゃない。」
「君のデビュタントは僕がサポートするって、僕は前に言っていたじゃないか。」
「ここまでミネルウァ公爵様にお世話になれないわ。」
「公爵家からではなくて、僕からのプレゼントだよ。僕が働いていること、忘れちゃったの?」
何を言っても言い返されるので、ルフェルニアは二の句が告げられずに口ごもる。
「それから、サムエルのエスコートもちゃんと断っておくんだよ?僕との約束の方が先だったでしょう?」
「あれは別に約束ってわけじゃ…。」
「ルフェは断らなかったじゃないか。口約束でも、契約は契約だよ。」
ユリウスはルフェルニアを優しく窘めるように言った。
ルフェルニアだって、最初に思い浮かべたのはユリウスだ。
でも、ユリウスみたいな素敵な人にはきっといい人がいる。
「ユリウスは他にエスコートする方がいるんじゃない?噂で、ユリウスは社交界で全ての女性の目をくぎ付けにしてるって、聞いたもの。」
ルフェルニアは自分で思っていたよりも拗ねた声が出てしまい、しまった、と思った。
ユリウスの目が弓なりになる。
「ふふ、ルフェったら嫉妬しているの?ルフェ以上に優先しなきゃいけない女性なんて、いないよ。」
案の定、ユリウスは揶揄うように、そして嬉しそうにルフェルニアの手を取った。
「さぁ、ルフェの憂いが晴れたところで、ドレスのデザインを決めないと。まずは形を決めるために既製品をいくつか試着してみようか。」
(結局、ユリウスには口で勝てないのよね…。)
ルフェルニアは自身の敗北を悟った。
ルフェルニアも色々と言い返してはいるものの、本心ではユリウスの言葉が嬉しいのだ。
(本人には絶対言わないけどね!)




