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『お父様、お母様
先日は王宮の夜会の招待状を転送してくれてありがとうございました。
迷ったのだけれど、学園のお友達に誘われたので、参加したいと考えています。
参加する場合、これがデビュタントになるので、おふたりの御都合もお伺いしたいです。
もしよろしければ、家に置いているドレスをいくつか送ってください。
ルフェルニア』
ルフェルニアが両親に手紙を出してから数日後、両親から王宮のパーティーに合わせて王都へ向かう旨の連絡が届いた。
ドレスやヘアメイクなどは母トルメアが一式用意してくれるそうで、今のサイズを測って送るよう手紙に併せて記してあった。
「ねぇ、リリー、新しくドレスを作ることになったから、サイズを測ってくれないかしら?」
リリーはサイラスがルフェルニアに付けてくれた、ミネルウァ邸の侍女だ。
リリーは大変気配りのできる女性で、ルフェルニアはすっかり懐いている。ユリウスの手紙に書けないことも色々と話ができる存在だ。
「あら、お嬢様、デビュタントを迎えられることにしたんですか?」
リリーはそう尋ねながら、てきぱきと測定の準備を始めた。
「うん、今度の王宮の夜会に出ようと思って。学園のお友達が一緒に出ようって、誘ってくれたの。」
リリーはピタリと動きを止めて、不思議そうにルフェルニアを見た。
「…失礼ですが、夜会への参加についてユリウス様にはお話しされたのでしょうか?」
「ううん、ユリウスは忙しそうだし、伝えてないよ。」
伝えるべきか迷ったが、きっと伝えればユリウスはパートナーがいてもルフェルニアのエスコートを申し出るだろうし、ドレスも贈ってくれるだろう。
ルフェルニアにはその確信があったからこそ、少し気が重かったのだ。
「さようでございますか…。」
リリーはそれきり、黙々と作業をすると、ルフェルニアに断ってからすぐに部屋を出て行ってしまった。




