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「改めまして、私はミシャ・フォートナー。知っているかもしれないけれど、私は平民よ。貴女、貴族なんだから家から何か言われるんじゃないの?」


ルフェルニアとミシャが校庭のベンチに腰をかけると、ミシャが先ほどより砕けた様子で話した。


王立学園には昔よりも平民の入学者が増えているが、それでも学年に数えるほどしかいない。何かルールがあるわけではないが、貴族と平民は距離を置いて接していた。


「フォートナーさんはとても優秀で有名だから、知っているわ。私は一応子爵家だけれど、とっても貧乏だし、寮暮らしだから、気にせず仲良くしてほしいのだけれど…ダメかな…?」


「貴女がそういうならいいけど…。気のせいでなければ、貴女、前から私のことを見ていた?」

「えっ!?気づかれるほど見てた?ごめんね…。私、昔から可愛いものが大好きで、ついフォートナーさんのことも目で追っちゃうの…。」


恥ずかし気にルフェルニアが答えると、ミシャが再び笑った。


ミシャは自身の見た目が良いことを自覚しているからか、下手に謙遜するような態度を取らなかった。ルフェルニアはその気持ちのいい性格もすぐに気に入った。


「そう。ありがとう。私のことはミシャと呼んで。」

「ありがとう!!私のことはルフェと呼んでね。」


ルフェルニアは学園でできた初めての友達に、喜びのあまりその場で踊りだしたくなる気分だった。


ルフェルニアとミシャは波長が合ったようで、それから時間を忘れて学園の先生の話や、寮の食事の話しなどで盛り上がった。日も暮れてきたので、寮へ戻る道すがら、ルフェルニアは疑問に思っていたことをミシャに尋ねた。


「ミシャ、今日はありがとう。貴女はこんなに気さくで話しやすいのに、どうしていつも一人でいたの?」

「それは、ルフェもでしょう?私はここに入る前、地元に小さな学習会の集まりで勉強していたのだけれど、そこで面倒なのに色々とやっかまれて人づきあいが面倒くさくなっちゃったのよ。」

「大変だったのね。ミシャは可愛くて頭も良いから、周囲からの嫉妬もあったでしょうね…。でも、ミシャは物語の中のヒロインみたい!」


ルフェルニアは少し前に流行っていた、平民の少女の頑張る姿が騎士の心を射止めるというラブストーリーを思い出した。


「実際は物語みたいな劇的ないじめも無ければ、助けてくれるヒーローもいないけれどね。ちょっと物を隠されたり、陰口を言われたりするくらいよ。」


ミシャは呆れたように肩をすくめて見せた。


「そっか。私は、とっても田舎にいたから、お友達の作り方が分からなくて…。ミシャは私の2人目のお友達よ!」

「そうなの?それは光栄だわ。ちなみに、1人目のお友達は領内の方なの?」


「1人目はユリウスよ。ユリウス・ミネルウァ、年も違うから知らないと思うけれど…。」


ルフェルニアが何てことの無いように言うと、ミシャは大きな目をさらに大きくさせた。


「この学園に通う生徒なら、誰でも知っているわよ!ユリウス・ミネルウァ様は奇跡の生還を果たした超天才で、高等部での成績はずっと主席。3年時の選択では、研究科を選択されたけど、騎士科からも魔法科からも熱烈なオファーがあったと噂になっているもの!」


学園の高等部では、3年進学時に自身の専門性と合わせて、騎士科、魔法科、研究科、普通科のいずれかを選択することになっている。

ルフェルニアはユリウスから手紙で研究科を選択したことを聞いていたが、他の科からも勧誘があった話しやずっと主席だったことは初めて耳にした。


(ユリウスがとっても優秀なことは知っていたし、私が知らないことがあってもそれは当然なのだけれど…、なんだか、知らない人の話を聞いているみたい。)


「そうだったの。私の中でユリウスは可愛いお人形みたいなユリウスのままなのになぁ。」


「そっか、ユリウス様とルフェは小さいころからの御縁なのね。確かに、ユリウス様の御病気の回復と、噂で聞いたルフェの名誉賞の件は関連しているものね。」


ミシャが腑に落ちたように話す横で、ルフェルニアは先ほどの自身の発言を恥じていた。


(さっきの発言は、私は皆の知らないユリウスを知っているって強がろうとしたみたい。つい言っちゃったけど、恥ずかしい…。昔を知っているからって、何も偉いわけでもないのに…。)


ルフェルニアは、自分が知らないユリウスを他の人が知っていることに対して、どうしてこんなに不安で悔しい気持ちになるのか、わからなかった。


_____


ルフェルニアはミシャと別れた後、ユリウスに手紙を出そうと机に向かった。

ルフェルニアは嬉しいことも、悲しいこともすべて、ユリウスに手紙で報告していた。

ルフェルニアはユリウスの返事を待たずに事あるごとに次々と手紙を送っており、ユリウスは2~3通に1回、返事をくれていた。

また、その内容は先に送った手紙をすべて読んだことが分かるような内容だったため、ルフェルニアはユリウスからすぐに返事がないことを気にしたことはなかった。


ただ、今日に限っては先日送った手紙の返事が届いていないことが気になった。


(別に、全部を報告する必要もないものね…。)


今日はミシャとお友達になれたことを書こうと思っていた。ミシャのことは前からとても可愛いくて、頭の良い子がいるとユリウスとの手紙の中で上げていた。

しかし、ルフェルニアが知らないユリウスがいるように、ユリウスが知らないルフェルニアがいたって良いのだ。


ルフェルニアは、拗ねた子供のようだと自覚しつつも、初めてユリウスへ報告することを止めた。

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