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ルフェルニアは予定どおり推薦枠で王立学園に入学した。
最初に懸念をしたとおり、勉強についていくのがやっとだ。
ユリウスは約束のとおりルフェルニアに勉強を教えてくれようとしたが、ユリウスの目の下に隈ができているのを見て、ルフェルニアはユリウスに頼みづらくなってしまった。
(ユリウスは、植物局に入ったって聞いたわ。ユリウスも慣れないことで大変なのに、迷惑ばかりかけられない。自分のことは自分でどうにかしなくちゃ!)
とはいえ、ルフェルニアには頼れる友人がいない。
ルフェルニアにはユリウスしか友人がいなかったので、友人の作り方が全く分からなかったのだ。
それに、名誉賞を受賞した故の推薦枠であることが知られているのか、噂に尾ひれがついて、ルフェルニアには誰も近寄ってこない。
そこでルフェルニアが目を付けたのは、後の親友となるミシャ・フォートナー、入学試験をトップで通過した天才だ。
不愛想というわけではないが、ひとりでいることが多く話しかけやすそう、というのもあった。しかし、何よりの理由は”可愛い”だ。
ミシャは小柄で、まん丸な目が小動物を彷彿とさせる学年一可愛い女性だ。
女性にしては珍しいショートボブがとても良く似合っている。
小さいお顔に大きな丸眼鏡をしているところもとっても可愛い、とルフェルニアは毎日彼女をチェックしていた。
ルフェルニアは勉強のことを除いても可愛い彼女とお近づきになりたかった。
「あの、フォートナーさん、私、ルフェルニア・シラーと言います。」
「うん、知っています。名誉賞を受賞した人が同学年に居ると、噂になっていました。」
ルフェルニアは放課後の図書館でミシャを見つけると、早速声をかけた。
ミシャは読んでいた本から顔を上げると小さく会釈する。そしてすぐに目線を本に戻してしまった。
「あはは、あれは何て言うか…周りの方のおかげというか…。」
「そう。で、何か用ですか?」
不愛想、というわけではないが、ちょっと端的でルフェルニアの心は少し折れそうだ。
勇気を振り絞るためにルフェルニアは思いっきり息を吸い込んだ。
「勉強教えてください!!!!!」
思ったよりもずっと大きい声が出てしまって、ルフェルニアは慌てて口を手でふさいだ。
随分響いたようで、周りの生徒もざわざわとしながらこちらを見ている。
ミシャもあっけにとられたようで、ポカンとした表情でルフェルニアを見上げていた。
「その、ごめんなさい…緊張で声が大きくなっちゃって…。」
今度は消え入りそうな小声で肩を縮こまらせると、ミシャは控えめに声を出して笑った。
「緊張で声が大きくなるって。
特待生なら私の他にもいるでしょう?どうしてですか?
私が一人でいるからですか?」
ミシャは、今度はしっかりと大きな丸眼鏡のかかった顔をルフェルニアの方に向けた。
(正面から見てもやっぱり可愛い…。)
ルフェルニアは思わずきゅんとした。
ユリウスともアルウィンとも違う小動物的で王道の可愛らしさだ。
さすがに初めて話すミシャに対し、理由を正直に言うのも憚られたため、ルフェルニアは暫し他の理由を探した。
しかし、すぐには思いつかなかったので、「可愛いから…」と正直にとても小さな声で言うと、ミシャには届かなかったのか「何ですか?聞こえません。」と聞き返されてしまった。
「可愛いからです!!!!!」
ルフェルニアは恥を忍んで言おうと声を絞り出そうとしたら、また、思ったよりも大きい声が出てしまった。
ミシャは再びあっけにとられたような顔をしたが、すぐに大きな声を出して笑いだした。
「ふふふ、貴女、とっても面白いのね!」
ルフェルニアはとっても恥ずかしい思いをしたが、ミシャの笑う顔を見て、嫌な思いはさせなかったようだと安心する。
「とりあえず、図書館から出ましょうか?大きな声を出し過ぎたせいで、周りの目が痛いわ。」
ミシャはひそひそ声でルフェルニアに声をかけると、ルフェルニアははっとして周囲を見渡した。皆が迷惑そうにこちらを見ている。
「ごめんなさい…。」
ルフェルニアとミシャはそそくさと図書館を後にした。




