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ユリウスとのランチと王都観光を終えて、ぐったりして帰ると、既にアルウィンとアンナ、トルメアは帰宅していた。


「お姉さま!とっても綺麗だったよ。」


アルウィンはルフェルニアが帰って来るとすぐに抱き着いてくれた。


(そうそう、これこれ。暴力的な美しさより、今はほっこり癒しの可愛さが欲しいわ…。)


ルフェルニアがアルウィンを強く抱きしめ返すと、アルウィンは嬉しそうに声を上げた。

アルウィンを抱きしめたまま、アンナとトルメアからも誉め言葉を貰うと、疲れた心に優しさが沁みこむようだった。


「…君たちって、いつもそんな感じなの?」


ユリウスが怪訝そうに聞いてくるので、ルフェルニアとアルウィンはきょとんとした顔でお互いの顔を見やる。

この姉弟には、距離感が近いという自覚はない。


「このくらい普通よ。私とアルは仲良しだもの、ねぇ?」

「はい、お姉さまと僕は仲良しだから、普通です。」


なお抱き合ったままルフェルニアがユリウスを見ると、ユリウスは笑顔のまま少し眉を動かした。


(あら、何だか少し不機嫌…?)


ルフェルニアは何となくユリウスが不機嫌なことは分かったが、なぜ不機嫌になるのかはわからなかったので、不思議そうな顔をする。


「そう。でも、学園の高等部に通うには子爵領から離れなきゃいけないから、そろそろ弟離れをしないとダメじゃないの?」

「私?学園には通わない予定よ?」


国内にいくつかある学園のうち、高等部を有する学園は王都の王立学園か、西方にある第2の都市と呼ばれるメテオにある学園のみだ。

メテオの学園は入学金と寄付金によりその経営を行っているため、一定額以上の入学金と寄付金を支払えば入学ができるが、寄付金が継続的に払えなくなると追い出されるという良くも悪くも”お金”で解決する学校だ。

当然シラー子爵家にはそのお金を支払い続けるだけの余裕はないし、ルフェルニアが王立学園へ入る頭もない。

ユリウスも当然ルフェルニアが学園の高等部に通わないことを理解しているものだと思っていた。


「最近はどちらの学校も女性が増えていると聞くけれど、私には絶対ムリよ。普通の令嬢らしく、家で家庭教師を付けて、嫁入り先を探すわ。」

「そんなの勿体ないよ。…君だって植物のことをもっと学びたいだろう?」

「確かに、もっと植物学が進歩してユリウスみたいに助かる人がもっと増えればとは思うけれど…。」


ルフェルニアが回答に困っていると、サイラスとオットマーが懇談会から帰宅したようだった。


「ちょうど集まっていて良かった。」


サイラスが部屋に入ってきてゆったりとソファに腰を掛けると、オットマーもそれに続いた。


「お父様、懇談会はいかがでした?」


ルフェルニアはユリウスから逃げるようにしてオットマーの横へ腰を掛けると、早速懇談会の様子を尋ねた。


「ああ、研究者の話しも聞けて、実に有意義だったよ。今後の国内の産業にも影響を与えるだろうね。ルフェ、本当によく頑張ったね。」


オットマーはルフェルニアを誇らしげに見つめる。


「ルフェに相談なんだが、王立学園の高等部に通ってみる気はないかい?」


先ほどまでユリウスとちょうど学園の話しをしていただけに、ルフェルニアはとても驚いてしまう。


「王立学園にって…、私、そこまで勉強できるわけじゃないし…。」


ルフェルニアは決して頭が悪いわけではない。

ただ、王立学園には国中から”天才”が集まるのだ。そもそも試験を突破できないだろう。

ルフェルニアが言いよどむ中、オットマーに代わりサイラスが話しを続ける。


「今日の懇談会には、学園長も同席していたんだ。学園には特待生制度があって、勉学が非常に優秀な者が授業料を免除される枠と、学園長の推薦枠が毎年何枠か用意されている。学園長の推薦枠は、テストでは測れない人材の才能を拾い上げることを目的にしているが、そこにルフェルニアを推薦したいとの申し出があったんだ。」


「さすが僕のルフェ。やっぱりルフェは学園に通うべきだよ。」


ルフェルニアが応えるよりも早く、ユリウスが嬉しそうに反応する。


(”僕の”って何よ…。)


ルフェルニアは顔を赤くしながら思考を巡らせる。

確かに、ユリウスにも伝えたとおり、勉強したい気持ちはある。


「でも…、学費はかかりますよね?アルウィンもいますし…。それに入学できたとしても勉強についていける自信がありません。」


「学費については、我が家から援助させてもらうよ。それに勉強はユリウスが見てくれるさ、心配いらない。」


サイラスがそういうと、ユリウスも畳みかけるように言葉を続ける。


「そうだよ。勉強は僕が見てあげる。僕は卒業後、公爵を継ぐまでは王宮に勤める予定なんだ。だから、いつだって会えるよ。それに、学園の寮じゃなくて、この邸宅から通えばいいじゃないか。」


(…いやいやいや。確かに昔は我が家で一緒に暮らしていたけど、それは私の両親がいたし!ミネルウァ御夫婦だって、いつもはここじゃなくて公爵領の本邸でしょ!?それはまずいわよ!)


ユリウスが楽しそうに来年のプランを述べる中、ルフェルニアは心の中でツッコミを入れる。


でも、これはルフェルニアにとってまたとないチャンスだ。

もしかしたら、リヒターやロビンソン、ベンジャミンみたいになれるかもしれない。

ルフェルニアは今まで想像もできなかった未来への道が拓けた気がした。


「ありがとうございます、とても嬉しいです。ぜひ、通ってみたいです!…でも、学園の寮に住みます。」


ルフェルニアがそういうと、サイラスとオットマーは頷いて、準備にとりかかることを約束してくれた。


一方のユリウスは心配そうな表情をしている。


「学園の寮に住むのは大変じゃない?貴族の子の多くは王都の邸宅から通うし、僕もそうしていたよ?」

「大丈夫よ、私の家は貧乏だから、貴族とは言えどもたいていのことは一人でできるし。」


「そのことだが、貴族は寮に1人、侍女を付けられることになっているからね、ここの邸宅から1名、ルフェルニア嬢に付ける予定だよ。」


さすがにサイラスも、両親不在で息子と一緒に若い女が同じ邸宅で暮らしているのは良くないと思っているのだろう。

オットマーが慌てて「そこまでしていただかなくても」とサイラスに声をかけるが、サイラスが「娘を預かる気持ちでいるのだから、ここは譲れない」というと渋々と引き下がった。


ユリウスは未だ心配そうな表情を浮かべているが、これ以上は何も言わなかった。


ルフェルニアは、不機嫌そうな顔をしているアルウィンに気づくと、近づいて頭を優しく撫でた。


「アルウィン、怒らないで?」

「怒ってない。」

「本当に?」

「…だって、お姉さまは行きたいんでしょう?」


アルウィンが不機嫌そうな顔を泣きそうに歪めたので、ルフェルニアは心臓がぎゅっとなるほど辛くなった。


「…、アルウィンごめんね、お姉さまは学園に通うわ。でもお休みの日は子爵領に帰るし、いつだって王都に遊びに来てね。」

「ちゃんとお手紙も書いてくれる?」

「うん、たっくさん書くわ!それに、入学するまでの間、たくさん遊びましょうね!!」

「…うん、絶対だよ。」


ルフェルニアがアルウィンを抱きしめると、アルウィンも強く抱きしめ返してくれた。


「ルフェ、これからは遊んでばかりではなく、しっかり勉強するように。」

「…ハイ。」


またとない機会にルフェルニアはすっかり浮足立っていたが、オットマーの指摘に、ルフェルニアは現実に引き戻され、肩を落としながら答えた。

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