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授賞式は、王宮内の主たる宮殿で執り行われる。
この区域は特に厳重な警備が引かれ、厳かな空気が流れていた。
ルフェルニアは思わず場の雰囲気にのまれそうになるが、気づいたユリウスがルフェルニアの耳元に口を寄せてそっと耳打ちをする。
「大丈夫。授賞式はあくまで式典としての体をなせばいいだけだから。ちゃんと案内された場所に立って、頭を下げて、賞の”メダル”を貰えばよいだけだよ。後から家族も皆来て後ろで見守っているから、安心して。」
(近い、近い!!ただでさえ緊張しているのに、ユリウスにも緊張しちゃうよ!)
ユリウスの吐息が耳に当たるので、ルフェルニアは恥ずかしくなってしまう。
ルフェルニアは必死に無言で何度もうなずいて見せた。
控室に着き、ユリウスはエスコートの腕を離して、ルフェルニアの正面に向き直ると、ルフェルニアの両手をとって優しく握りしめた。
「それじゃあ、頑張ってね。」
ユリウスは笑顔で送り出そうとしてくれたが、その瞳には心配そうな色が浮かんでいた。
ルフェルニアは昨日、今日、緊張でユリウスの目線から目を逸らしがちだったが、このとき漸くユリウスと正面から見つめ合った。
(あら、この瞳って…。)
ルフェルニアは、この瞳に見覚えがあった。
自由奔放なルフェルニアをよく心配してくれていた、小さいころのユリウスと同じ瞳だ。ルフェルニアは不思議と今のユリウスと昔のユリウスが重なって見えて、緊張がほどけていくのを感じていた。
「うん、ありがとう。私、頑張ってくるね。」
ルフェルニアがちゃんと目を合わせてユリウスにそう言うと、ユリウスは安心したような表情を見せた後、ルフェルニアの手の甲を撫でてから、名残惜しそうに手を離した。
ルフェルニアが控室に入ると、既にリヒターとロビンソンは到着しており、2人はルフェルニアのドレスを褒めると、ルフェルニアに一緒に座るよう促した。
暫し歓談していると、控室の扉からノックが聞こえて少し日に焼けた若い男性が入ってき
た。
「ベンジャミン、遅かったな。」
リヒターが声をかけたことで、ルフェルニアは昨日聞いていた話を思い出す。
「初めまして、シラー子爵令嬢。私はベンジャミン・アルノルトです。一応男爵の出ですが、長男ではありませんので、気軽に接してください。」
「私はルフェルニア・シラーです。土の魔力と植物の生育について論文をまとめられたと伺いました。」
ルフェルニアは昨夜、研究所でもらった論文の写しを読んでいたため、有名人に会ったような気持ちになる。こんなに若い方だったなんて、きっととっても優秀な方に違いない、と目を輝かせて挨拶すると、ベンジャミンは困ったように頬をかいた。
「論文はまとめたけど…まとめただけです。3課のみんなが色々と試行錯誤してデータを集めてくれたんです。僕自身には研究者としての資質は全くなくって…。今日はチームの代表で賞を受け取りに来ました。」
「謙遜しなくて良い。チームを上手くまとめて、成果を整理するのも、立派な才能じゃないか。」
リヒターがベンジャミンをフォローするように肩に手を置く。
昨日の研究所や、今のやり取りを見て、ルフェルニアはユリウスの手紙に書いてあった『研究所の皆さんは熱心』という言葉が直に感じられて胸が熱くなる。
きっと、チームの一員それぞれが自分の役割を果たし、結果にたどり着いたのだろう。
(この方々全員が、ユリウスを守ってくれたんだわ。)
ルフェルニアは尊敬の念でいっぱいになった。




