蜘蛛蟻の化け物
「ここら辺のはずなんだけど…」
そこは、魔獣の群れとは外れている場所だ…遠くから観察でもしているのだろうか…?
「倒さなくていい気がしてきた…」
「――そうでもないんじゃない?群れが倒されてきたら出ざるを得ないんだし、首根っこ切り離して掲げれば相手逃げるかもよ?」
「それもそうか…ま、それも見つけなきゃ意味ないんだけどな」
「ま、魔力の出力から分かるんだけどね…向こうが出ないなら出すまでよ…!《ウィンド・ワイルド》」
そうして、メーニンは風の刃を跳ばし、近くにあった枯れた木を凪払う。
「うーむ、私の出る幕はないと思っていたのに…」
メーニンの魔法を避けた人影が目の前に現れる。
奴はヒト型ではあったが顔は蟻に類似しており、腕も8本あった。
「人の形をした化け物か」
「まぁ、動きやすいですしね。先人の知恵という奴でしょうか?」
「多分違う、まぁ…動きやすいからこの形になったんだと思うけど」
会話できるぐらいの知能はあるか…
「さて、そろそろ始めるか…」
「えぇ…《ワイルド・ストーム》」
メーニンはヒロタカの足に風を纏わせ、ヒロタカは急加速し、あの化け物に斬りつける。
だが、奴はひらりと華麗に避ける。
「うーむ…せめて名乗らせてくれませんかね…?私はアイントスパイドあなたがたは?」
「ヒロタカ…とこっちはメーニンだ」
そう言って、地を蹴りアイントスパイドに斬りかかる。
だが、その腕はがっしりと掴まれ、投げ飛ばされる。
「ヒロタカ君!」
「大丈夫だ、こんくらいガキの頃に兄貴に投げ飛ばされた時の方が痛かったよ」
「なら、こんなのはどうです?」
そう言って、アイントスパイドは腕から糸を出し、ヒロタカの腕にくっつける。
「――ッ!」
その糸は粘着性があり、中々切り離せない…
すると…
ギュンっと視界が揺れた。
「へ?」
体が宙へ浮いていて、思わず間抜けな声が出る。
そうして、下へ引っ張られるのが分かった。さっきの糸がヒロタカを地面へ叩きつけようとしているのだ。
それに気付いたヒロタカはすぐさま糸を短剣で切り離す。
だが、切り離しただけだ。この高さから落ちればひとたまりもないのは明白である。
どうしようかとヒロタカが考えていると…
「任せて!」
何をだろう…?
だが、任せて見ることにした。
ゆっくりと風を感じながら落ちていく。
「《ブリーズ・ウィング》」
そうして、地面に当たる直前、風を吹かせてふわりと優しくヒロタカを持ち上げる。
そうして、ヒロタカは華麗に着地した。
「大丈夫だった?」
「命はあるから大丈夫だ、助かったよ」
「うーむ、この程度では死にませんか…そっちの女子の方が厄介かもですね…」
そう言って、アイントスパイドはメーニンを睨む。
「気をつけろ、メーニン…お前狙われてるぞ?」
「そうなったら、ヒロタカ君も私を助けてね?」
「さて、最後の雑談はすみましたかな?」
「残念ながらすんでねぇな…最後にならないもんで」
そう、二人は不敵に微笑み、同時に地を蹴った。