隻腕の男
ヒロタカは適当にプラプラと村内を歩いてみる。
村は思っているよりも広く、人も多い。
パッと見た感じ木や石材は豊富にあるようだった。
それと、獣耳を付けた人もいた。後でアリステラさんに聞いてみよう。
その様子を確認していると…
「お前がさっき入った新入りか?」
そう声がした。ヒロタカは声の主の方を向く。
そこにはヒロタカより背が大きく、ガタイの良い大男がいた。だが、その男の左腕は失われていた。
「そうですが、何か?」
「短剣握ってるって言ってたな?気に食わねぇな。ただでさえ鉄はすくねぇのにこんなひょろいガキがそれを使うなんてよ、もっと相応しい人がいるんじゃねぇか?」
なんとなくだが、イラついた。確かにこの人から見たら、鉄を使った武器を使われるには気に食わないだろう。恐らくヒロタカも同じ立場ならそう思うだろう。
「あぁ、一理あるな。だが、俺が相応しければ良いんだろ?」
なら、この人に証明しよう。ヒロタカが短剣を握るに相応しいと…
「どうです?一戦、僕とやりませんか?」
「臨むところだ」
――――――――――――――――――――――
騒ぎを聞きつけたのか、ギャラリーがすぐに円状になり、ヒロタカ達を囲う。
「ヒロタカ…!」
「あぁ、アリステラさん。すみませんねこんなことになっちって」
「まぁ、よくあることだ。怪我はしないでくれ」
よくあるんだ…
「ルールはどうします?」
「俺を認めさせてみろ」
「ざっくり、してるなぁ…分かった」
そう言って、ヒロタカは地を抉り、一気に距離を詰め、拳を握り、まっすぐ、男に当てる。
「――ッ!」
男は腕でヒロタカの拳をガードする。
だが、男はそのまま後ろ方向に体が進む。
「なるほど…口だけでは無さそうだ…」
ヒロタカは握り拳を作り、攻撃に備える。
「だが、まだまだ青二才!」
男はその場から消え、ヒロタカの目の前に現れる。
そして、男の拳が腹にめり込む。
「――がぁぁぁ…」
小さく宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられる。
「受け身ぐらいは取れたか…」
「いてぇ…けど…このぐらいどうってことねぇ…」
それに、俺は意外と速く動けるらしい。
ヒロタカはすぐさま立ち上がり、地を蹴り、距離を詰める。
「フン!」
拳を振るうが、男の掌で受け止めらられる。だが…
足を蹴り上げ、見事に男の脛に激突する。
「――ッ!」
これには思わず男も苦渋の表情をする。
だが男はすぐさま反撃しようと、拳を握る。
ドッと鈍い音がした。
「ッガ…!」
だが、ヒロタカはその拳を体で受け止める。
そうして…拳を腹部にめり込ませ、そのまま弾き飛ばす。
「はぁ…はぁ…」
息を整え、二人は同時に地を蹴り、お互いに顔に狙いを定め、拳を振るった。