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異世界に誘拐されました。  作者: 自然の輪廻
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勝利へ導く一手、支配へ堕ちる闇

 ダクラと名乗る魔獣とヒロタカ一行は静かに睨み合っていた。まるで時が止まったかのようだ。しかし、流れる緊張感と汗は時の静止をを否定する。


 時を動かしたのはダクラだった。地面を蹴り上げ、鋭い爪はヒロタカに殺意を向ける。

 その殺意を短剣で受け止め、受け流す。

 受け流したのもつかの間、ダクラはすぐにもう片方の爪を襲わせる。だが、ヒロタカも隙を与えたわけではない。二撃目もすぐに対応し、短剣で受け止める。三撃目、四撃目…と殺意が襲いかかってくる。

 激しい攻防の攻撃側はダクラにあり、ヒロタカは守りに徹している。すぐにでも脱したい状況だ。


「くっ…」


 なんとかして、隙を作らないとッ…!


 しかし、ダクラの攻撃はそれを許さない。いくら防御しても追撃が来る。全ての攻撃を受け流すのは不可能に等しく、致命傷は避けつつも既に体からは血が滴っている。


「避けろ!ヒロタカっ!」


 ゴルドンの声が鼓膜を震わす。視界の端には斧を高く振りかぶるゴルドンの姿があった。

 ヒロタカは体制を低く屈めながら地を蹴り、後ろへ退避する。

 そうして、ゴルドンの斧はダクラに直撃し、勢いそのままにふっとばされる。


「無事か?」


「あぁ、素直に感謝するよ」


 直撃したのはダクラの爪部分で斧攻撃は防がれてしまった。しかし、ヒロタカが危機を脱した。それだけで一先ずは十分だろう。

 先手は取られてしまったが、攻撃は防ぎきった。ゴルドンが吹き飛ばしたダクラが起き上がる隙にダクラに攻撃をぶち込みたい。

 その思考は戦場に立つ戦士四人とも同じだったようだ。ヒロタカの短剣が青く、淡く光る。


「《ウィンド・ブラスト》」

「《氷華雪月》」


 アリステラとゴルドンが己の武器を振り被ると同時にヒロタカとメーニンは己の技を出す。

 メーニンの《ウィンド・ブラスト》は無数の風の刃がダクラに襲いかかる。身体を傷つけることに成功したが、ほとんど爪で防がれてしまう。

 しかし、ダクラの爪はボロボロ…刃毀れ状態に陥った。

 さらに、アリステラ、ゴルドン、ヒロタカの攻撃も命中する。

 ヒロタカの《氷華雪月》によってつけられた傷から氷の華が咲き、傷を広げ、血が吹き出した。《氷華雪月》の効果だ。


「練習の成果出てるじゃない」


「あぁ、実戦で使うのは初めてだけど。上手く出せてよかったよ」


 ヒロタカは怪我の療養中、ベッドの上で武器に魔力を込め、技を出す練習をしていた。持っていた剣は魔力を込めて使える魔鉄鋼であったからだ。

 属性は氷。魔力量も魔法をメインに使っているメーニンと同等クラス。しかし、魔法は使えなかった。

 ヒロタカの性質は人々を不思議がらせたが、古い文献に厄災前にもそういう性質の人は居たらしい。


 四人の同時攻撃はダクラに強烈なダメージを与えた。さらに、ヒロタカの技に込めた細工も効果を現していた。

 次は自分の番だと言わんばかりにダクラは地を蹴り、ゴルドンへ間合いを詰める。隻腕であり、斧という重い武器を持ったゴルドンはダクラの素早い斬撃を防ぐことは難しい。

 だが…


「――ッ!」


 ゴルドンはダクラの攻撃を防ぎきった。

 ゴルドンの動きが早く、攻撃を防いだのか。否、ダクラの動きが遅くなったのだ。

 これこそ、ヒロタカの細工だ。斬撃に《氷華雪月》とは別の氷属性の魔力を込めて、ダクラの体内にぶち込む。そして、ダクラの血液が凍り始める。完全に凍れば戦闘不能…最低限動きが鈍くなるデバフ効果。勝利へ導く一手。


「はぁっ!」


 攻撃を防がれ、一瞬の隙を見逃さずアリステラはダクラに如意棒の先端を突く。


「ァガッ――!」


 如意棒はダクラの鳩尾に深く刺さる。殺傷は出来なくとも、かなりのダメージは入っただろう。


「だがなぁ…捕らえた…ッ!」


 ダクラがアリステラを見つめ、ニチャリと言ったように右の口角を上げる。

 そうして、ダクラはアリステラの首を掴み、絞める。ダクラは腕から黒い何かもアリステラに注入してるように見えた。


「アリステラさんッッッ!」


 ダクラの腕を斬り落とそうと、地を抉り、接近する。魔力を短剣に込め、短剣が光り輝く。


「《氷月斬》」


 たった一歩でダクラに迫る。宙を舞い、体を翻して満月を描くようにダクラの腕目掛け、短剣を振るう。

 ダクラはアリステラを放し、腕を引っ込めヒロタカの攻撃を避ける。しかし、すぐに鋭利な爪をヒロタカに振るってきた。


「――シッ!」


 振るわれた爪を短剣で受け止め、いなす。その後、二撃ほど短剣を振るうが、防御される。

 だが、目的は攻撃を当てることではない。防御した隙をつき、ダクラを蹴り、アリステラからダクラを遠ざける。


「大丈夫ですか!?アリステラさん!!」


 アリステラに呼びかけるが返答はない…意識も失っている。

 だが、あの程度の首絞めでアリステラが死ぬとは考えられない。ダクラがアリステラに小細工を施したか。


 その数秒後、アリステラが意識を取り戻した。そのことにヒロタカは安堵する。


「アリステラさん…!良かっ…」


 言葉を紡ごうとした刹那、ヒロタカの脳天に強烈な衝激が訪れる。

 頭から血を流しながら地面と体が擦り合わされ、ゴロゴロと転がる。


 頭の衝激によるグラッとした感覚を抑えながら、立ち上がり、謎のの衝撃の正体に目を向ける。


「アリステラ…さん…?」


 そこには、黒い靄に覆われこちらを睨むアリステラの姿があった。

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