小さき者の強大な恐怖
ヒロタカの短剣とアイントスパイドの拳が交わる。
ヒロタカはその拳を弾き、もう一撃入れようとするが…
「チッ…」
「そう簡単に一撃入れさせませんよ」
そうして、ヒロタカは腕を掴まれる。
まずい…!
振り払おうと、腕を動かそうとするが…動かない…
すると、アイントスパイドの腕が砂に…否、小さな蟻となり、ヒロタカの腕に上ってくる。
「きっっっっしょ」
その蟻はヒロタカの皮膚や肉を啄みまくる。
振り払おうと逆の手で払うとそっちの手にも登りつめてくる。
あろうことか、その蟻は一匹だけの状態からでも分裂し、数を増やす。
「《ワイルド・ブレス》」
瞬間、ヒロタカに強風が吹き、小さき蟻が一匹残らず吹き飛ぶ。
腕からは血がダラダラと垂れ流れている。
「酷いことになってるわね…大丈夫?」
「剣は握れるが…力が上手く入らん」
「じゃあ、ちょっと腕出して」
そう言われ、ヒロタカは正直に腕を出す。
「そう簡単に回復させませんよ?」
「ちょっと、うるさい!《スクランブル・ストーム》」
そう言って、メーニンはアイントスパイドの周りに大きな竜巻を作り、閉じ込める。
そうして、閉じ込めてる間にメーニンは小瓶を取り出し、中身をヒロタカの腕にかける。
「おぉ、痛みが引いた!」
「感激している場合じゃないわ…《スクランブル・ストーム》は長くは持たないの…」
「まぁ、回復させてくれただけ上々だろう…ありがとうな」
ヒロタカがそう言い終わると、竜巻が消える。
それを見計らったヒロタカはすぐさま、アイントスパイドに切りかかる。
そうして、アイントスパイドは驚いた様な表情を見せ、その隙に腕を二本ほど斬り裂いた。
八本あるとはいえ、アイントスパイドからしたらかなりの重症だろう。
だが、アイントスパイドは動揺することなく、ヒロタカの腕を掴み、拘束する。
「――ッ!」
腕を掴まれ、先程の恐怖がこだまする。
すぐさま短剣を逆の手に持ち替えて、掴んでいる手首を斬り裂き、斬り離す。
依然、掴まれている腕を振り払う。
「ヒロタカ君!《アップドラフト・スクリュー》」
メーニンの風の力で体が浮き、アイントスパイドの背に周る。
「――ッ!」
そして、アイントスパイドの背中に深く短剣を刺し、斬り裂く。
「ァ…ガッァ…」
これには、アイントスパイドも声を漏らす。
だが、ヒロタカは違和感を感じた。メーニンも小難しい顔をしていた為恐らくヒロタカと同じく違和感を感じたのだろう。
そして、違和感の正体はすぐにわかった。
さっき斬り裂いた腕が既に回復しているのだ。
「回復速度が段違いだわ…」
「いや、回復してない…こいつの体に傷を付けること自体が間違いなんだ…」
「こいつの体は…蟻で出来てる」