自殺漫才デルタンズ~漫才終わったら自殺します~
俺たちの最後の漫才が始まる。
この漫才が終わったら俺たちは自殺する。
最後の漫才かぁ。ウケるとええな。
『次はデルタンズのお二方でーす!』
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「どーも!デルタンズでーす!」
「突然ですけど筋トレにハマってましてね」
「ええやないか。どんなんしてんの?」
「首鍛えとるねん」
「首鍛えるのは難しいよー?」
「簡単よ。首に縄結んでドアノブに引っかけて体重かけて……ドーン!」
「自殺やないか!自殺やそれ!やめとき!」
会場は『これは笑っていいのか?』という空気に包まれている。
ええんやで。笑ってくれや。
・
「やめときやめとき」
俺が首吊り自殺をしようとひたら相方が優しい言葉とは真逆に凄まじいスピードで俺の体を支えた。
「死なせてくれ!もう俺たち42才やぞ!いつになったらテレビでれんねん!YouTubuの登録者も36人。なんやこれ!人気な!!」
「……がんばろう。がんばろうや」
「なんで泣いてんの?」
・
「他にはどんなトレーニングしてるの?」
「ジムでバーベルや」
「あー。バーベルええやん!」
「こう思いっきり上に持ち上げて……手を離して首にドーン!」
「自殺やそれも!死のうとすな!ジム関係者に怒られるぞ」
「巣鴨にあるすべてのジムに謝罪します」
「全世界のジムに謝れ!」
クスクスと笑ってくれる人が増えてきた。
ええでー。
・
「俺んち来いや。温かいもんたべよ。元気になるで」
相方だって貧乏だ。でもこいつはもっと辛いはず。
婚約者がいる。
この日食べた肉無しちゃんこはうまかったなぁ。
・
漫才も後半戦や。
「お前病んでるんちゃうか!?」
「そう思ってアロマ始めたわ」
「アロマ?ええねぇ!そういう話聞かせてよ!」
「アロマはシチュエーションも大事や。空気が入らんように窓閉めて、布団用意してリラックスして横になって……」
「うんうん」
「ほんでゆっくりとガスを吸うねん」
「自殺や!ガス自殺や!金か!金なんか!いくら必要やねん!貸すわ!」
『笑ってもいい』そんな空気になっている。どんどん笑い声が増えている。
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「こんな金借りても返せへんよ」
「くれてやる」
結婚資金やろ?なんで相方はこんな俺に良くしてくれるんや?一緒にいても損しかしないのに。
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「明るい話しよー。今年は民間で初めて宇宙に行った人が現れましたねー」
「せやねー。宇宙はええねー。重力無いのがいいよ。無重力って最高ですよ」
「なんや?宇宙に行ったことあるような言い方やね?」
「無重力は経験あるよ」
「無重力?どこでよ?」
「スカイダイビング」
「あー。スカイダイビングね!無重力ではないけどフワフワして楽しいよねーあれは」
「パラシュートつけへんけどね」
「ほぼ自殺や!」
「無重力体験や!」
「重力があるゆえに自殺やねん!浮いてないやろ!」
「浮いとるわ!ピョン!フワー!ゴオー!ドーーン!グシャッ!ふわ~や!」
「死んどんねんそれ!魂になってんねん!多分グシャッ!のとこやろなぁ!」
「なに怒ってんねん!俺が死んだらそんっっなにあかんのか!」
「アカン!大事な相方やからあぁぁぁ!」
「……おぅ。ごめん」
「……俺こそごめん」
『『自殺!ダメ!絶対!どうも!ありがとうございましたー!』』
かなりウケたと思う。後は結果を待つだけか。
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「そりゃあお前。相方ってのは一心同体。お前が死ぬときは俺も死ぬ」
「重いなぁ」
「……次のオーディション。アカンかったら……死のか?」
ホンマかいな。冗談やと思ったけど相方の目は笑ってない。
「ええよ」
「とびきりのネタ頼むわ」
とびきりねぇ。何をネタにしても俺たちの上位互換がおるからなぁ。かと言って奇抜やったらええってわけでもない。
あ。そうだ。俺にしか考えられないネタがあるやん。
「自殺漫才なんてどや?」
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『優勝は……スチームパンクーーー!』
優勝はダブル金髪のイケメンコンビが持ってった。
アカンかったかー。若手のパワーには勝てんな。
そりゃそうか。自殺漫才じゃなぁ。
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これからコンビで自殺しようってのに『万歳漫才』の万歳師匠の楽屋に呼ばれてもうた。
説教やろなぁ。
「君らはテレビ向けやないけど僕は好きや。暇やったら僕んとこの舞台でえへん?」
『『出ます』』
「返事はやいなっ!」
返事が速かったのは俺たちが本当は死にたくなかったからやと思う。
まだ漫才やりたい。相方につっこんでもらいたい。
二人で相談して自殺は延期になった。
一年後。俺たちはちょっとだけ有名になってYouTubuとライーンのスタンプで生活できるようになるけどそれは少し先の話や。
死ぬ気になるのは死ぬほどめんどいけど死ぬより楽やで。
みんなも自殺はあかんよ。辛くなったら病院いって薬を貰えばええ。
医学の力は凄いで。俺も薬飲んだらふわーって楽になったわ。
『一回何錠飲むの?』
『102錠』
『自殺やないかい!用法要量を守ってお使いください!』