第3話 薬師ギルド
転生から3日目。
今日の予定は、午前中は王都に出て散策したいと思っている。
もちろん、テキトウにブラブラしたいわけではなく、例えば薬師ギルドの場所や、薬師試験の正確な日程などを把握しておきたいのだ。
さらに、必要があれば可能な範囲で、今日中に手続きも行うつもりである。
さて、王宮を出るのは容易であった。馬車での移動を勧められたものの、俺はそれを拒否し徒歩で王都を歩いている。服装も庶民が着るようなものを、チョイスしてもらった。
ただ、私服の女護衛が1人ついて来ているのは面倒だ。
「名前はなんて言うんだ? 」
「えっ!? あ、はい。私はオレリー・ヴァロアと申します」
と、女護衛が言う。
もしかしたら、この俺とは面識があったのかもしれない。
「オレリーと言うのか。確か、近衛騎士なんだってな? 」
先ほど、近衛騎士の上役とちょっとしたやり取りした際に、彼女が近衛騎士であるという話は聞いている。
「はい……」
なるほど。
彼女は、あまり自分のことを話したくないのかもしれない。詮索するような質問は、控えておくことにしよう。
「まあ、今日はよろしく」
そして、オレリーと共に王都を歩く。
建物は全て、昔のヨーロッパを彷彿とさせるものだ。個人的には中世アラビア世界のような街並みが良いのだが、まあ良い。
「オレリー。薬師ギルドはどこにあるか、判るか? 」
と、俺はオレリーに訊ねた。
「薬師ギルドですか……ではご案内いたします」
オレリーはそう言って、俺を先導する。
どうやら彼女は、薬師ギルドの場所を知っているようだ。
十数分ほど進んでいると、診療所と書かれた看板が掲げられている建物が増えてきた。どうやら診療所の商店街のようなところである。
不意に俺は思い出す。
こちらの世界に転生する直前に、あの真っ黒な空間で仰々しい老人の声がしたことを。
確かチート能力がどうのこうのと言っていた。ステータス確認と鑑定だったか。
あれは幻聴か何かだったのだろうか?
今のところ、ステータスなるものは確認できないし、何かを鑑定したこともない。
『自身の心の内で、特定の人や物に対してステータス確認や鑑定をする意思を持てば、自動的にお前にそれらの情報をもたらす。はじめにお主自身とオレリーのステータスを確認すると良い』
不意に、老人の声がする。
これはあの時の声だ。
――― あんたは誰なんだ? ―――
と、俺は心の中で訊く。
『その質問には答えられない。さて、最後に収納スキルというのは、収納したい物があれば、収納したいと念じればその場で直ぐに収納できる。取り出したいときも、取り出したいと念じればその場で直ぐに取り出すことができる。ではさらばだ』
老人の声はそれっきり、全く聞こえなくなった。
幻聴かどうかよく判らないが、言われたとおりにやってみるか。
俺はそう考え、まずは自分自身のステータス確認をしたいと心の中で念じた。するとどうだろうか……
――――――
ギヨーム・ボルボン 18歳 男
職業 王族
レベル1
HP80
攻撃力10(+0)
防御力10(+2)
魔力10(+0)
特記事項 転生者 元王太子
――――――
と、俺の頭は認識したのであった。
驚くべきものだ。
オレリーも確認してみるか。
――――――
オレリー・ヴァロア 17歳 女
職業 近衛騎士
レベル5
HP153
攻撃力23(+20)
防御力18(+2)
魔力5(+0)
特記事項 王位継承権
――――――
なるほど。
近衛騎士だけあって、魔力を除けば俺よりも高いわけだな。
それにしても、特記事項の王位継承権とは一体何なのだろうか……。
まさか……な?
「薬師ギルドは、その建物です」
どうやら、薬師ギルドの周囲に診療所や、調剤用の道具を取り扱っている店がたくさんあるようだ。日本の法務局の周りにも、司法書士事務所や土地家屋調査士事務所などがたくさんあるが、それに似た光景である。
「ありがとう。じゃあちょっと行ってくるよ」
そう言って、俺は薬師ギルドの建物に入った。
中は受付嬢のいる窓口に、色々な貼り紙が為されている掲示板などが目に入った。その掲示板の貼り紙には、薬師試験に関するものもあった。
「やはり1カ月後くらいに試験が行われるようだ。場所はここか」
さて、薬師試験の場所と日程はわかった。
後は手続きをどうするかである。
「すみません」
俺は、受付嬢に声をかける。
「どうされました? 」
「薬師試験を受けたいのですが」
「薬師ギルドには加入しておりますか? 」
「いえ」
「では、まずは薬師ギルドに加入していただく必要があります」
薬師ギルドに加入しなければ、薬師試験は受けられないのか。
ゲームにはそういう細かい設定は無かった。そうなると、試験問題もかなり細かくなるかもしれないな。
しかしながら、薬師でもないのに薬師ギルドに加入するというのは何だか面白い。
「わかりました。さっそく、加入手続きを行いたいのですが……」
「ではこちらの用紙に、記入事項をご記入ください」
受付嬢はそう言って、1枚の用紙を取り出してきた。
記入事項には、本名又はニックネーム・生年月日・≪住所又は他業種ギルド加入の有無≫などがある。
例えばニックネームを記入しておけば、ニックネームを使って薬師として活動できるらしい。また、他業種ギルドに加入していれば、住所を記入する必要がないと記されている。
「もし、住所が無い場合についてご説明します。他業種の冒険者ギルドに加入していれば、実際には住所が存在せずとも有るものと看做されます。そして、冒険者ギルドは住所無しでも加入できます。ですので冒険者ギルドに加入してから、またお越しください」
と、受付嬢が詳しく説明してくれた。
「なるほど。どうもありがとうございます」
冒険者ギルドに加入すれば、住所を記入しなくても良いのか。
では、冒険者ギルドに加入しない手はない。
「冒険者ギルドの場所まで、ご案内いたしましょうか? 」
と、声をかけてきたのは受付嬢ではなく、オレリーだった。いつの間にか俺の横に立っていたのである。別に外で待っていろとは言っていなかったし、そもそも俺の護衛なわけだから仕方ないか。
「あ、ああ。よろしく頼む」
そして俺はオレリーの案内で、冒険者ギルドへ行くことにしたのであった。