0,プロローグ
暗く、湿った、日の光の届かぬ危険な世界。
人々の生活していた大地の下深くに、超巨大な地下迷宮が眠っていた。人々の記憶から忘れ去られたまま悠久の時を過ごし、ある日、とある魔法実験が失敗し、3つの都市を代償に再び人々の前に姿を現した太古の都。何人もの冒険者を呑み込み、無数の屍を生産してきた地獄の一丁目。貧者を富豪に変えた夢の場所。ダンジョンは様々な名称で呼ばれる。
時とともに姿を変える魔の迷宮を踏破した者は誰もいない。
下へ下へと深層へ潜っていったところで、果てがない。人類の最高記録は28階。しかし、この記録とて、本人の体験談のみで証拠はない。危険に囲まれたレッドゾーンで何ヶ月も生活し続けているうちに自分の現在地を見失う事例は後を絶たない。伝説の冒険王セヴン・バックスが階数を数え間違えた可能性は大いにある。
しかし、奈落の底で長期間過ごし、無事帰還したセヴンは特別である。
二週間を過ぎた段階で、大半の冒険者は帰らぬ人となってしまう。
それでも人々は地獄へ足を踏み入れる。
各々の事情を抱えて、奈落の底へ追い立てられる。
――これは、そんな冒険者たちの物語である。