一話 御子柴家のあさ
朝のまぶしい日差しがせつなの目を覚まさせた。
「ふわあぁっ」
体を起こして大きなあくびをすると、先ほどまで寝ていた藁を部屋の隅へと片づけた。
秋の夜は少し肌寒く、藁を多めに敷かないとなかなか寝付けない。だが冬はさらに藁が必要になるだろう。
(今度新しい藁もらいに行かないと)
同じ村に住む、稲を育てている翁の姿を思い浮かべた。腰は曲がっているが、気前がよくいつも朗らかにほほえんでいる。
夏には酸味抜きされた李を分けてもらった。
柔らかい果肉をほおばると、李の甘みとわずかな酸味が口いっぱいに広がった。そのおいしさに夢中になり、義弟妹たちは手や口がべたべたになるのをよそにたくさん食べていた。
隣を見ると義弟妹はまだ寝ている。あどけない寝顔で、毎日それを見るのがせつなの日課になっていた。
「梢、つくし、枸杞、るり、よもぎ、ほたる、伊吹、梛木、杼星……よし、みんなまだ寝てる」
全員がまだ寝ているのを確認し、せつなは起こさないように静かに起きた。
小袖をたすき掛け、朝餉の用意をするため土間に向かった。土間はすでに誰かいるらしい。包丁が何かを切る音が聴こえた。
この家には人が十一人住んでいる。そのうちせつなを含めた十人が子どもだ。が、せつな以外の子どもたちはまだ夢の中にいる。そうなれば消去法で一人しかいない。
この御子柴家で唯一の大人であり、家のみんなが慕っている義父だ。
そっと土間を覗くと、見慣れた直垂を着た人物がいた。背を向けていて顔は見えないが、大きな背中と黒髪にいくつか混じった白髪が『おっとう』本人であることを確証づけている。
「おっとうおはよう。今日は早いね」
「ん」
料理中である父に遠慮することなく声をかけ、かまどの蓋を開けた。ふわっと立ち昇る蒸気がせつなの顔を覆い、濃く香る雑穀米のにおいが腹の虫を鳴らした。
「おっとう今日少なめ?仕事ある?」
「客人が来る。俺は少なめでいいから、残りはおまえたちで好きなだけ食え」
「お客さん?珍しいね」
誰が来るんだろうと今日訪ねてくるらしい客人の姿を思い描く。しかし山奥にある貧しい家に来る人物なんて、そう簡単に想像できない。
「その人っていつ来るの?ご飯食べるってなったら、残しとかなきゃ……」
せつなはご飯をよそっていた手を止め、空っぽになったかまどの中を見た。家族全員が食べる分はなんとか足りたが、客人が食べる分はいっさい残っていない。
自分のご飯を減らそうか少し迷った。
「気にするな。そんなに長居はしない」
「じゃあいいか」
蓋を閉めてお膳にそれぞれの器を置く。今日の朝餉は雑穀米とぜんまいと瓜の漬物だ。
十あるお膳に同じものが並んでいるが、もう一つのお膳には違うものがあった。漬物が盛り付けられている器ではなく、お湯でふやかした雑穀米だ。箸でかき混ぜて一粒つまむ。
「これくらいなら大丈夫か」
柔らかくした米は一番年下の伊吹のためのものだ。まだ歯が生えたばかりで、硬さがあるものは食べられない。
数ヶ月前までは乳母の紫紀がご飯を作ってくれていたのだが、突然いなくなってしまった。
おっとうが言うには「主のもとへ返った」らしい。
運ぶまでの用意ができたら、寝ている弟妹たちを起こしに行く。これがいつもの、御子柴家の朝だ。