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さて、新戦力である1年生の2人は投打ともに練習試合での活躍をみたるに、凄まじい力を秘めている事が分かったので、安室高校ナインは期待と希望を持ち、練習にはいつにも増して活気が出ていた。
やはり年下の部員が活躍すると、それに刺激されるのであろう。実に良い傾向である。
新戦力のふたりのうち、小久保は一所懸命レギュラー陣の練習に食らいつき、最近では金串をはじめとする中心選手にも引けを取らない体力をつけてきた。そんな小久保とは対照的に、今居は相変わらず才能だけで野球をしている、といった印象を持たれるような、常に不貞腐れたような態度をとっていた。
「肘井さん、今日もランニングしかしないんすか?そんなんじゃ僕みたいに野球上手くなれないっすよ」
「俺肘いてえんだよ(笑)」
「はははっ!肘井さん肘痛いって、親父ギャグやめてくださいよ!」
「いやいや本当だって(笑)」
肘井の実績を知らない今居は、いつもグラウンドを走ってばかりの肘井をからかうような発言ばかりしていた。そしてそれを、櫻井ら上級生たちは白い目で見ていた。
「肘井、早くケガ治してあの生意気な奴にピッチング見せつけてやってほしいよな」
「ほんとほんと!あいつ、腰抜かすぜ(笑)」
兎に角、肘井のケガが回復する事は、生意気な今居の鼻を明かすだけでなく、安室高校野球部にとって願ってやまない事であるのだ。
しかし現状において、肘井のケガは回復の目処が立っていない。よって、櫻井ら上級生たちにとって認めたくはないがこの生意気な今居が一番手の投手として計算されているのだ。
一方で、小久保も徐々に頭角をあらわし、レギュラー陣を脅かす存在になってきていた。さらにいうと小久保の場合、大概全てのポジションをそつなくこなす事ができるため、安心出来るレギュラー陣などいない。逆にいうと、そんな小久保の存在がチーム全体に程よい緊張感を与え、その事によりひとりひとりが危機感をもって練習に臨む事が出来るようになっていた。
さらに、小久保は練習がどれほど夜遅くまで続いても、自分の練習時間もたっぷりとっていた。
自主練習は全体練習終了後に殆どのメンバーが行う事ではあるが、小久保の場合、チームメイトが次々と自主練習を終えても、最後まで、力尽きるまで懸命にバットを振り続けた。
毎日毎日、命を削りながらバットを振る小久保。そんな小久保に、尊敬の念を抱く上級生も少なくない。それ故に、自分も小久保に負けまいと、多くのチームメイトが自主練習の時間を増やすのであった。
「はははっ、小久保のやつ、いつも頑張るなぁ、ちょっと頑張りすぎじゃないか」
自主練習の様子を見ていた今居がそう言うと、お前が練習しなさすぎなんだと、金串をはじめとする先輩たちから一斉にツッコミが入る。しかし今居は、自分は天才だからと開き直る。なんとも図太い男だ。
全く姿勢が対照的な、新戦力のふたりなのである。果たして、この2人は安室高校野球部にとっての救世主になってくれるのだろうか。




