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そうはいってもやはり緊張感のある面持ちで、1年生たちは試合に臨む。
各審判は上級生から選ばれ、残った上級生たちは試合を見学する事になった。
「うわぁ、守備上手い人いたらやだな」
青山が呟くと、チームメイトたちから総ツッコミを受ける。しかし皆、青山の気持ちも分からないわけではなかった。1年生の新戦力が現れりという事はチームにとって良い事ではあるが、それと同時に自分のポジションを脅かす可能性も生じるからだ。
もっとも、青山の不安とは裏腹に、紅白戦の序盤を見る限りでは、現状のレギュラー陣を脅かすほどの実力者は、野手、投手ともにいないようであった。
試合は5回表、赤組の攻撃。スコアは0-0のままであったが、ついにこの時、試合が動いた。
ノーアウトからフォアボールでランナーを出したのだ。それも二者連続の事であったため、その時点で石原から投手交代が告げられた。
かわってマウンド上に上がったのは、さっき自分がボール拾いをする事に対して文句を垂れた生意気な奴だった。
「おっ、あいつじゃん。デカい事言うからには、上手いんだろうね」
「ほんまやで」
上級生たちは、マウンド上の例の奴に注文する。
野球部員全員の視線を一気に自分に集めても全く動じる事なく、奴は投球を開始した。
..........ズバン!!!ストライク!!!
豪速球が勢いよくキャッチャーミットに突き刺さる。微妙な心持ちで見ていた上級生たちもからざわめきの声が次々とあがる。
「す、すげえ。豪速球だ。櫻井くらいのスピードは出てんじゃね?」
「うん、いや、それ以上かもな」
それを横で聞いていた櫻井は怪訝な顔をするが、仕方ない。事実だからである。
1年生にして櫻井を凌ぐほどのストレートを持つ奴の球を打てる1年生など、果たしているのであろうか。
ノーアウト一、二塁とした上で、続くバッターをストレートで追い込んだ後、ストレートとスピードがほとんど変わらないフォークで三振をとった。
続くバッターに、石原が代打を出した。
出てきたのは、さっき金串が名前を聞いた、小久保である。身長は180センチくらいであろうか、安室高校野球部にしてはさほど高い方ではないが、ピンとしさ背筋と、ガッシリとした体型には、並々ならぬ風格を感じられた。
「おっ、真面目な小久保くんだ」
「ははっ!さっきの因縁の相手やん」
「注目の対決だな」
これまた上級生たちは注目を傾ける。特に、キャプテンの金串は、小久保に好印象を抱いていたので、なおさらの事であった。小久保という男は、真面目である事は分かったが肝心の実力はどの程度のものなのか。
生意気vs真面目の対決は、今回の紅白戦において最大のメーンイベントであることは、言うまでもなかった。果たしてこの真面目な小久保という男は、生意気な奴の豪速球を打ち砕く事ができるのであろうか。
しかし、この後、小久保は予想外の行動に出る。




